暦年贈与とは

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暦年贈与とは、相続時精算課税制度と同様に相続・事業承継対策として用いられる方法のひとつです。暦年贈与は基礎控除額110万円を有効活用することで、自分が保有する財産を生前から承継させることができます。

相続税とは、亡くなった家族から財産を受け継ぐ時、受け取った人に課される税金であって、相続する財産の金額が大きいほど相続税が高くなります。そのため、多くの財産を有する場合は、それらを生前に少しずつ受け渡すことで、将来発生する相続税を軽減できる可能性があります。

このような理由から、暦年贈与は相続・事業承継対策として用いられています。

ただし、一度に多くの財産を贈与すると贈与税が発生し、逆に多くの税金を支払うことになるため、暦年贈与を行う時は、生前に時間をかけて少しずつ財産を受け渡すことが重要です。

本記事では、この「暦年贈与」とは何か?仕組みや方法について、お話ししていきたいと思います。

所要時間: 5分

  1. 暦年贈与の仕組み

    まずは、暦年贈与の仕組みについて解説します。

  2. 暦年贈与と併用可能な非課税・控除制度

    暦年贈与と併用可能なものについて解説します。

  3. 相続時精算課税制度とは併用できない!

    相続時精算課税制度について解説します。

  4. 暦年贈与の方法

    暦年贈与の方法を3つのステップで解説します。

  5. 暦年贈与の注意点

    暦年贈与の注意点を解説します。

暦年贈与の仕組み

暦年贈与は、個人が年間総額110万円を超える財産をもらった時、それらを受け取った人に贈与税が課されます。

贈与税は相続税と違い、家族以外の他人から財産をもらった場合なども対象となりますが、1年間の総額が110万円以下であれば税金は発生しません。

つまり、暦年贈与は、贈与税の基礎控除額を利用し、将来発生する相続税の負担を減らすものです。したがって、子や孫などに受け渡したい財産がある場合は、110万円以下の贈与を毎年行うことで、贈与税の申告や納税などの手続きなしに財産を移動できます。

贈与税は、お金だけでなく、不動産や車、各種権利などの経済的価値のあるさまざまなものが対象となります。たとえば、現金100万円と車を親から子どもに受け渡した場合、車の評価額によっては財産の総額が年間110万円を超えてしまい、贈与税が発生する可能性があります。

また、贈与税は1年間にもらった財産の総額にかかります。たとえば、父親から50万円、母親から50万円の贈与を受けた場合には合計で年間100万円のため、贈与税は発生しません。一方で、両親から100万円ずつ贈与を受けた場合には、年間200万円の贈与を受けているため、110万円を控除した90万円に贈与税が課せられます。

暦年贈与と併用可能な非課税・控除制度

暦年贈与は以下の4つの特例制度と併用ができます。

住宅取得等資金の非課税制度

父母や祖父母などの直系尊属から住宅の取得や増改築などの資金をもらった際など、条件を満たす場合は一定の金額が非課税となる制度です。

居住用不動産を贈与したときの配偶者控除

婚姻期間20年以上の夫婦間で、住宅やそれらの購入費用などの贈与があった場合は最大2,000万円まで控除される制度です。

教育資金の一括贈与の非課税制度

30歳未満の子や孫が、父母や祖父母などの直系尊属から教育資金をもらう場合、1,500万円まで非課税となる制度です。

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度

18歳以上50歳未満の子や孫が、父母や祖父母などの直系尊属からから結婚・出産・育児などの資金を一括でもらう場合、1,000万円まで非課税となる制度です。

相続時精算課税制度とは併用できない!

「相続時精算課税制度」とは、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫へ生前贈与する時に利用できる制度です。生前贈与の際に合計2,500万円までであれば何度でも贈与財産価額から控除され、贈与者が亡くなった時、相続財産に贈与で受け渡した財産を加算し、相続税を算出する制度です。

この相続時精算課税制度を一度でも利用すると、同じ贈与者からの贈与については贈与税の非課税額110万円が適用できません。

どちらを利用した方がお得かは所有する財産によって異なるため、あらかじめよく確認することが必要です。

暦年贈与の方法

ここでは、暦年贈与の方法を3つのステップで解説します。  

初めて利用する方や流れを知りたい方はぜひ参考にしてください。

 ①贈与契約書を作成する
 ②財産を受け渡す
 ③贈与税の申告書を提出する

① 贈与契約書を作成する

「いつ」「誰から誰に」「いくら」の贈与を行うのかが明瞭に分かる贈与契約書を作成します。暦年贈与は、財産を渡す人・受け取る人の双方で合意があったことが証明できなくてはなりません。特に小さい子どもへ贈与する場合などは、贈与を受けたことを本人が認識するのが難しいため毎年書面を残しておくようにしましょう。

贈与契約書は、以下の内容を含むものを作成しましょう。

  • 贈与者の氏名、住所
  • 受贈者の氏名、住所(受贈者の親権者の氏名、住所)
  • 贈与契約書を作成した日付
  • 贈与を実行する日付
  • 贈与する財産の種類、内容、所在地(不動産の場合)、金額などの情報
  • 贈与の方法

契約書は署名や実印の捺印があるものを2通用意し、双方で保管します。受贈者が未成年の場合は親権者の住所、氏名なども併せて記入し、親権者の署名や捺印を行ったものを作成・保管するとよいでしょう。

② 財産を受け渡す

贈与契約書に記載した贈与実行の日付に、財産を受け渡します。
お金を受け渡す場合は、現金で渡すのではなく、銀行口座へ送金するとよいでしょう。日付や金額、贈与者・受贈者の情報などが記録されるため、客観的な証拠が残るためです。

③ 贈与税の申告書を提出する

贈与税は、毎年1月1日~12月31日の1年間に受けた贈与財産の総額が110万円を超える場合、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告をする必要があります。
なお、贈与税を申告するのは、財産を受け取った受贈者となります。

暦年贈与の注意点

暦年贈与を選択した場合の注意点については以下の3つです。

相続開始前3年以内に贈与を受けた場合、相続税がかかる

暦年贈与では年間110万円以下であれば贈与税が課されずに財産を受け渡せますが推定相続人(財産を相続すると推定される人)に対しては相続開始前3年以内に贈与した財産は、金額に関わらず相続税の計算対象となります。

たとえば、父が子に毎年100万円ずつ現金を渡していた場合、父が亡くなった時は相続開始前の3年間で子が受け取った300万円が相続税の課税対象となります。

定期贈与に注意

定期贈与とは、一定期間に一定額を受け渡すことが決められている贈与のことです。

たとえば、「1,000万円の財産を毎年100万円ずつ贈与する」贈与契約書を作成した場合、1,000万円を受け取る権利を贈与されたとみなされるので注意しましょう。

名義預金に注意

名義預金とは、口座の名義人と実際にお金を出した人が違う預金のことです。

よくあるケースとしては、孫や子のために祖父母が預金していたり、収入が無いはずの専業主婦が夫の給料を自分名義の口座で管理していたりといったことが挙げられます。

110万円の基礎控除を利用するには、贈与者・受贈者の双方で合意があったと証明し贈与を成立させる必要があります。

受贈者が口座を自由に使えなかったり、口座の存在を知らなかったりすると、贈与ではなく名義預金とみなされる可能性がありますので双方で合意があった旨を贈与契約書に記載し、受贈者が自由に預金を使えるようにするなどの対策を行いましょう。

まとめ

暦年贈与とは、贈与税の基礎控除額110万円を利用して財産を受け渡す方法のことで、相続・事業承継対策として広く普及しています。

しかし、近年、税制改正が検討されており、今後は暦年贈与が相続加算される期間が長期化したり、暦年贈与の廃止が検討されております。

これから暦年贈与を検討している場合は専門家に相談のうえ、できるだけ早く対策を行うことが望ましいでしょう。

田中将太郎 - Shotaro Tanaka

記事の筆者:田中将太郎

                       

(株)田中国際会計事務所 代表取締役
田中将太郎公認会計士事務所・税理士事務所 代表
東京都、北海道札幌市、宮城県仙台市に拠点を置き、個人事業主やスタートアップ企業から大企業までを幅広く支援。会計・税務、創業支援に加え、経営戦略コンサルティングの知見を活かした”戦略税務”や売上を伸ばすための”戦略マーケティング”に強みを持つ。
経営のための”裏ワザ”情報は、LINE、note、Youtubeでも配信中。                        
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