「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」とは(税理士が教える節税)
田中将太郎公認会計士・税理士事務所です。多くの経営者が節税対策に頭を悩ませていると思いますので、節税対策の1つとして「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」を説明します。
この「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」は、節税対策として有用な制度なのですが、意外にもそれを知らない経営者が多いので、この記事を通じて「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」について知識を身に着けてください。
また、税理士や公認会計士でもこの制度を知らない、または最大限に活用できてない場合もありますので、経営者から積極的に同制度を検討し、適切なタイミング、方法で活用してください。
所要時間: 5分
次の手順で解説していきます。
- 「経営セーフティ共済」とは
「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)制度がどのような制度なのかを説明し、どのように節税に役立つかを解説します。
- 「経営セーフティ共済」を有効活用する戦略
次に、経営セーフティ共済をうまく活用する際に気を付けるべき点を解説します。
- 「経営セーフティ共済」を損金とするために必要な書類
経営セーフティ共済制度を利用するためには、税務関連書類が必須ですので、そこにも言及します。
- 取引先の倒産時の「経営セーフティ共済」の活用
本来の目的である取引先の倒産時に経営セーフティ共済がいか有益かを説明します。
- 「経営セーフティ共済」の取引先の倒産時の活用方法
本来の目的である取引先の倒産時に経営セーフティ共済がいか有益かを説明します。
- 「経営セーフティ共済」の財務戦略的な着眼点
資金調達をする上で重要な財務戦略の視点から、「経営セーフティ共済」の掛け金をどのように会計処理するかを説明します。
「経営セーフティ共済」とは
経営セーフティ共済は、中小企業倒産防止共済とも呼ばれる制度です。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)を活用することで、取引先事業者が倒産した場合に、無担保・無保証人で掛金総額の最高で10倍(上限金額8,000万円)まで借入を行うことができます。
「経営セーフティ共済」制度の趣旨
この経営セーフティ共済は、中小企業倒産防止共済法に基づく共済制度で、中小企業の取引先事業者が倒産してしまった場合に、その後起こると予想される連鎖倒産を防ぐことを目的として始まった制度です。創設は、昭和53年ですので、歴史ある制度です。
「経営セーフティ共済」が節税になる理由
ここまで話を聞いた人の中で、なぜこれが節税になるのかと疑問に思われる方がいると思います。しかし、本題はここからです。
実は、経営セーフティ共済の掛金は、全額が損金(必要経費)に算入できるのです。
金額は、月額5,000円~20万円の範囲で選べます。積立の上限は、800万円で、月額は変更することができます。
40か月以上掛け金を支払うと、解約の際に掛け金が100%戻ってきます。さらに、前納制度を使い1年分まとめて経費算入することができるのです。
取引先が倒産しなくても一時借入が可能
ここで、節税はしたいけど、40か月も資金を凍結するのは不安という方もいると思います。
そこで役立つのが、取引先が倒産しない場合でも解約手当金の範囲内で借り入れを行うことができる「一時貸付金」制度です。しかも、金利は0.9%とは低水準です。
一時貸付金の場合は、掛け金の納付月数ごとに借入限度額が以下のように異なります。
掛金納付月数 | 一時貸付金の借入限度額 |
---|---|
1か月~11か月 | 0円 |
12か月~23か月 | 掛金総額 × 75% × 95% |
24か月~29か月 | 掛金総額 × 80% × 95% |
30か月~35か月 | 掛金総額 × 85% × 95% |
36か月~39か月 | 掛金総額 × 90% × 95% |
40か月以上 | 掛金総額 × 95% × 95% |
掛金総額が800万円の場合 | 800万円 × 100% × 95%(760万円) |
経営セーフティ共済を活用すれば、会社のいざという時に備えながら、節税もすることができます。
参考:中小機構ホームページ「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」
「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」を有効活用する戦略
経営セーフティ共済によって、月額5,000円~20万円の範囲で損金算入できることが分かったと思います。しかし、注意しなければいけないのが、経営セーフティ共済の積立を解約した時の解約手当金は、雑収入として課税されます。
つまり、経営セーフティ共済による節税は、単なる「課税の繰り延べ」に過ぎないのです。では、この「課税の繰り延べ」をどのように有効活用すればよいのでしょうか。
この類の節税は、必ず中長期的な展望に基づいて、戦略的に行う必要があります。そうでないと、結果的に蓋を開けてみると、余計に税金を払うことになってしまうというケースも珍しくありません。
赤字のタイミングで積立を取り崩し
たとえば、利益がどんどん出ている景気のよい時期にこの経営セーフティ共済による積み立てをどんどんしておいて、業績がよくない時に、積み立てを解約し、解約手当金を収益計上すると理想です。
しかし、将来の業績が悪化したことなんて想像もしたくないですし、経営者であればそうならないように事前に業績を伸ばすための事業戦略を立てるのが普通でしょう。
投資のタイミングを狙う
常に業績を上げることを目指す戦略的な経営者の場合には、この解約手当金は、新たな成長を目指す投資フェーズで収益計上するのが最善でしょう。
たとえば、製造業で、大きな工場を建設する場合や不動産賃貸業で、大規模な修繕を行うタイミングなどが当てはまります。
節税も事業戦略と連動していることが非常にわかると思います。ぜひ一緒に事業戦略をぎ論できる税理士を見つけて、このような積立を検討してみてください。
節税メリットの最大化の方法
経営セーフティ共済は、積立を解約のタイミングだけでなく、積立を始めるタイミングも重要です。
たとえば、利益がものすごい上がると予想される会計期間があるとします。その場合は、その会計期間の最初の月から最大限度額の20万円を毎月積み立てましょう。そして、その会計期間の期末に、翌年度分の積立金の一括年払い(240万円)を行います。それによって、その会計期間では最大で480万円の損金を計上することができるのです。
「経営セーフティ共済」の掛け金を損金とするために必要な書類
この経営セーフティ共済の掛け金を損金(必要経費)とするためには、「法人税申告書の別表10(7)」を添付する必要があります。こちらは国税庁のホームページで取得可能です。
何のことかよくわからないという方も多いと思いますので、「経営セーフティ共済」を始められた方はご担当の税理士か公認会計士に問い合わせてみてください。
参考:国税庁「第66条の11 《特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例》関係」
取引先の倒産時の「経営セーフティ共済」の活用
経営セーフティ共済のそもそもの制度趣旨は、連鎖倒産の防止と説明しました。そのため、取引先が倒産した時は、掛け金の10倍の金額を無利子で借入できます。
取引先の倒産時の借入でかかるコスト
無利子で借入ができるからといって借り入れの際に全くコストがかからないわけではありません。一点気を付けておくことは、取引先の倒産に伴い借入を行った場合は、掛け金の10分の1が掛け金の総額から差し引かれてしまいます。無利子で借入できるといいますが、実質的に掛け金の10%は金利と同じようにとられてしまうということです。
コストを払っても全然お得
なんだ、コストがかかるのかと残念に思った方も多いと思います。
しかし、最初に掛け金の10%を支払えば、その後5~7年は無利子で借り入れができるのです。よく考えるとお得ですよね。
たとえば、800万円の掛け金を準備しておけば、取引先が倒産した緊急時に8,000万円を実質的に80万円の利息で7年間も借りることができるのです。この場合は、実質的な金利が年0.1%程度になるので、やはり頼りになる制度ですね。
「経営セーフティ共済」の財務戦略的な着眼点
最後にお伝えしておきたいのが、「経営セーフティ共済」を活用する際の財務戦略的な要素です。
「経営セーフティ共済」の2つの会計処理方法
「経営セーフティ共済」の掛け金の会計処理方法としては、以下の2通りが考えられます。
1.PL(損益計算書)に計上する方法
2. BS(貸借対照表)に計上する方法
財務戦略上は、後者の「2. BS(貸借対照表)に計上する方法」をオススメします。
1.PL(損益計算書)に計上する方法とは
まずは、PL(損益計算書)に計上する方法から説明します。
これは、「経営セーフティ共済」の掛け金を支出した際に、「保険料」等の勘定科目で損益計算書上で費用計上するパターンです。仕訳としては、以下のようになります。
<費用計上の仕訳>
保険料 XXX/現預金 XXX
これにより、費用が増えて、損益計算書上は、利益が少なく見えるのです。もう分かってきた方もいると思いますが、投資家や銀行から資金調達をする際に、利益は多く見えて、過去の積み上げ利益である利益剰余金が大きく見えた方が有利になります。
しかし、「経営セーフティ共済」の掛け金を費用計上する方法ですと、利益が少なく見えます。税務上は損金算入して節税ができるとしても、この掛け金は将来的に引き出せるので、掛け金を支出するからと言って、利益が少なく見えるのは経営者としては不本意ではないでしょうか。
2. BS(貸借対照表)に計上する方法
PL(損益計算書)に計上する方法によって生じる経営者の不満を解消するために、この「BS(貸借対照表)に計上する方法」がオススメです。次のような仕訳になります。
<資産計上の仕訳>
保険積立金 XXX/現預金 XXX
このような処理を行うことで、費用計上をすることなく、「経営セーフティ共済」の掛け金を支出できるのです。将来的に引き出すことができる積立ですので、むしろこのような処理は、会計上妥当な処理といえるのではないでしょうか。
BS(貸借対照表)に計上した場合の税務上の処理
ここまで説明を聞いた方で鋭い方は、会計上資産計上しているのに、税務上は損金(必要経費)として処理できるの?と不安になるでしょう。しかし、ご安心ください。
「法人税申告書の別表4」という税務書類で調整(減算処理)することで、しっかりと税務上は損金(必要経費)に算入できるのです。
何の話かよくわからなくなっている人も多いと思いますが、頭の片隅に入れておいてください。
現実には、「1.PL(損益計算書)に計上する方法」を適用している税理士がとても多くいるので、財務戦略上は、「2. BS(貸借対照表)に計上する方法」を適用してはどうかと主体的に提案してみても良いかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」について理解を深めて頂けたでしょうか?これは節税対策の1つの要素に過ぎませんので、その他の節税方法についても担当の顧問税理士と色々と議論してみると新しい発見があると思います。