コーポレートファイナンス:現在価値とは?①

/ /

会社経営をしていく上で、コーポレートファイナンスは必須の知識です。

今回は、コーポレートファイナンスを理解する一歩として、企業価値の算定について考えていきたいと思います。

企業価値を算定する上で、最も重要な考え方の1つとして、「現在価値」という概念があります。

本記事では、この「現在価値」とは、何か?どのように算定するのか、について深堀りしていきたいと思います。

所要時間: 5分

  1. コーポレートファイナンスの基礎概念

    まずは、コーポレートファイナンスの基礎について解説します。

  2. 現在価値とは何か?

    次に、現在価値の概念について解説します。

  3. 現在価値の算定手法

    最後に、現在価値を算定する最も一般的な方法を説明します。

コーポレートファイナンスの基礎概念

まずは、コーポレートファイナンスの基礎概念について簡単に解説していきます。

コーポレートファイナンス(企業財務)は、企業が資本をどのように調達・配分し、それに関連するリスクを管理するかに関する金融の分野です。具体的には、資金調達方法、資本構造、配当政策、投資判断、企業価値の最大化など、企業の財務活動に関する多くの側面を研究する領域となっています。

コーポレートファイナンスの主な目的は、企業の株主価値を最大化することです。これは、適切な資金調達方法の選択、効果的な投資判断、リスク管理、そして企業の財務活動を通じて最適なリターンを実現することを目指しています。

以下は、コーポレートファイナンスの主要な概念や活動の一部です:

資本予算:企業が将来のプロジェクトや投資にどれだけの資金を使うかを決定するプロセス。
資本構造:企業がどのように資本(自己資本や他人資本)を組み合わせて運用するかに関する決定。
配当政策:利益を再投資するか、株主に配当として分配するかの決定。
企業評価:企業や事業の現在の価値を評価する手法。
リスク管理:金融の観点からのリスク(例:為替リスク、金利リスク)を特定し、これらのリスクを軽減または移転する方法を考える。

コーポレートファイナンスは、経済学、会計学、および金融学の原則に基づいており、ビジネススクールなどのカリキュラムの中で教えられています。

コーポレートファイナンスとは

コーポレートファイナンスとは、企業がどのように資金調達、資本政策、会計、投資意思決定に取り組むかを考察するファイナンスのサブ領域です。

多くの場合、コーポレートファイナンスの目的は、株主価値(又は企業価値)を最大化することです。そのために、短期および長期におけるファイナンス計画の策定やそれに伴う様々な戦略の実行を行うことになります。

コーポレートファイナンスにおける考察は、資本投資から税金対策まで幅広く行われます。

コーポレートファイナンスの2つの重要なポイント

コーポレートファイナンスを考える上で、重要なポイントが2つあります。

それは、①お金の時間価値と②不確実性です。

①お金の時間価値とは、将来起こるキャッシュフローは、今起きるキャッシュフローよりも価値が低いということです。

つまり、将来の1円は、今の1円よりも価値が低いと考えられます。

これは、お金があれば、それを運用することで、将来はより大きな金額にすることができます。たとえば、今、100万円を持っている場合、誰かに同額を1%でそのお金を貸し付けることで、1年後には101万円になります。

この考え方は、コーポレートファイナンスにおける基礎になってきます。

次に、不確実性です。リスクが高いキャッシュフローは、リスクが低いキャッシュフローよりも価値が低いという考え方が、不確実の概念です。

コーポレートファイナンスのルール

上記の2つの重要なポイントに加え、1つ理解しておくべきルールがあります。それは、Law of One Priceというルールです。

これは、同じキャッシュフローを生み出す2つのプロジェクトがあった場合、その2つのプロジェクトは、同じ価格、同じ価値となります。

現在価値とは何か?

現在価値とは、将来発生するキャッシュフローを現在の価値に引き直しといくらの価値になるかを意味します。

ここで、将来における価値を将来価値(FV:Future Value)、現在における価値を現在価値(PV:Present Value)というように定義しましょう。

まずは、現在価値と将来価値を簡単に理解するために、2ステップで考えていきましょう。

①現在価値から将来価値を算定する

②将来価値から現在価値を算定する

①現在価値から将来価値を算定する

あなたは、今、100円を持っていると仮定しましょう。そして、その100円を第三者に貸した場合の金利は、5%としましょう。

この場合、今持っている100円の価値、つまり現在価値は、100円となります。

それでは、1年後の将来価値はいくらになるでしょうか。

この100円は、5%で運用されるので、1年間の金利は、100円×5%=5円となります。すなわち、現在価値100円の1年後の将来価値は、100円+金利5円=105円となります。

計算方法としては、次のようにも計算できます。

現在価値100円×{1+0.05(金利5%)}=105円

②将来価値から現在価値を算定する

それでは、逆に将来価値から現在価値を算定してみましょう。

1年後の将来価値は、105円だったとします。1年間の運用金利が5%の場合、現在価値はいくらになるでしょうか?

この場合、次のような算定式になります。

105円÷(1+0.05)=100円

つまり、現在価値=将来価値÷(1+金利)によって、現在価値が計算できると考えてください。

現在価値の算定手法

ここまでで、現在価値と将来価値の概念が理解できたと思います。そこで、今度は、より実践的な現在価値の算定方法について考えてみましょう。

実践的な計算方法の例

将来のキャッシュフローから現在価値を求める最もメジャーな方法として、DCFというものがありますが、それ以外にも、経済的、財務的、および業界固有の要因に基づいて様々な手法が存在します。

以下は、企業の現在価値を評価するための一般的な手法をいくつか挙げます。

①DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)
未来のキャッシュフローの予測を行い、それを現在の価値に割り引いて合計します。
資本コストや要求収益率を用いてキャッシュフローを現在価値に割り引くことで、企業のエンタープライズバリュー(企業価値)を算出します。

②マーケット倍率法(Comparable Company Analysis、CCA):
同業他社や同じ業界の企業の財務データを基に、目的の企業の価値を評価します。
一般的な倍率には、株価収益率(P/E)、企業価値対EBITDA倍率(EV/EBITDA)などがあります。

③類似取引比較法(Precedent Transaction Analysis:)
過去のM&A取引や業界内の類似取引のデータを基に、企業価値を評価します。
取引先の詳細や取引の条件、取引価格などの情報を使用して、似たような企業や事業の市場価値を推定します。

④純資産価値(NAV)法:
企業の総資産から総負債を引いた純資産(純資産の時価)に基づいて、企業価値を評価します。特に、不動産や資源関連の企業のような有形資産が大きい企業(資産重視の業種)や、清算価値を知りたい場合に用いられます。

⑤再調達原価法(Replacement Cost Method)
企業が現在持っている資産や事業をゼロから再調達(又は再生産)するためのコストを算出し、それを基に企業価値を評価します。

これらの評価手法は、企業や業界の特性、利用可能な情報、評価の目的に応じて選択・組み合わせることが多いです。また、企業価値を正確に評価するためには、複数の手法を併用して感度分析を行ったり、異なるシナリオを考慮することも一般的です。

DCF法での時価評価のステップ

DCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)法は、企業や投資案件の価値を評価するための最も一般的な手法です。
DCFの基本的な考え方は、未来のキャッシュフローを現在価値に割り引くことで、その企業や投資案件の現在の価値を算出することです。

以下は、DCFの基本的なステップと考え方です:

  1. 未来のキャッシュフローの予測:企業やプロジェクトが将来にわたって生成するであろうキャッシュフローを予測します。
  2. 適切なディスカウントレートの選定:未来のキャッシュフローを現在価値に割り引くためのレートを決定します。このレートは通常、資本コストや期待収益率として知られるもので、投資のリスクや時間価値に基づいています。
  3. キャッシュフローの割引:上記ステップ2で選定したディスカウントレートを使用して、各期の未来のキャッシュフローを現在価値に割り引きます。現在価値に割り引く方法は、本記事の前段で説明した通りです。
  4. 全ての割引後のキャッシュフローの合計:これにより、企業価値やプロジェクトの総価値が得られます。

DCF分析の利点は、具体的な数値に基づいて投資の価値を評価することができる点にあります。しかし、正確な価値を求めるためには、適切なキャッシュフローの予測やディスカウントレートの選定が非常に重要です。また、DCFは予測に基づいているため、その予測が不確実性を伴う場合、結果も不確実になる可能性があります。
DCF分析を実施する際には、複数のシナリオや異なるディスカウントレートを使用して感度分析を行い、評価の幅を確認することが一般的に推奨されます

DCFの計算例

DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)の基本的な計算の一例を以下に示します。

【前提条件】

企業Aは、今後5年間で以下のフリーキャッシュフロー(FCF)を予測している。

Year 1: 100百万円
Year 2: 110百万円
Year 3: 115百万円
Year 4: 120百万円
Year 5: 125百万円

ディスカウントレート(資本コスト)は10%とする。
Year 5以降は、永続的な成長率が2%であると予測する。

【計算方法】
各年度のディスカウンテッド・キャッシュフローの計算

Year 1:
100百万円 ÷ (1 + 0.10)^1 = 90.91百万円

Year 2:
110百万円 ÷ (1 + 0.10)^2 = 90.91百万円

Year 3:
115百万円 ÷ (1 + 0.10)^3 = 85.78百万円

Year 4:
120百万円 ÷ (1 + 0.10)^4 = 81.45百万円

Year 5:
125百万円 ÷ (1 + 0.10)^5 = 77.51百万円

永続的な成長率を用いた端数価値(ターミナルバリュー)の計算

ターミナルバリュー = Year 5のFCF × (1 + 永続的成長率) ÷ (ディスカウントレート – 永続的成長率)

= 125百万円 × 1.02 ÷ (0.10 – 0.02) = 1,418.75百万円

Year 5でのターミナルバリューの現在価値 = 1,418.75百万円 ÷ (1 + 0.10)^5 = 873.44百万円

企業価値の算出

合計の現在価値 = Year 1 + Year 2 + Year 3 + Year 4 + Year 5 + Year 5でのターミナルバリューの現在価値

= 90.91百万円 + 90.91百万円 + 85.78百万円 + 81.45百万円 + 77.51百万円 + 873.44百万円

= 1,300百万円

以上の計算により、企業Aの現在価値は約1,300百万円と評価されます。

この例は非常にシンプルにしたもので、実際の評価ではさまざまな要因や仮定、詳細なデータを考慮する必要があります。

まとめ

いかがでしょうか。ここまででコーポレートファイナンスの基礎について説明してきましたが、イメージは湧きましたでしょうか。

田中将太郎公認会計士・税理士事務所では、企業価値評価やM&A、事業承継などのサポートも行っています。これらのお悩みがある方は、「お問い合わせフォーム」よりお気軽にお問い合わせください。

田中将太郎 - Shotaro Tanaka

記事の筆者:田中将太郎

                       

(株)田中国際会計事務所 代表取締役
田中将太郎公認会計士事務所・税理士事務所 代表
東京都、北海道札幌市、宮城県仙台市に拠点を置き、個人事業主やスタートアップ企業から大企業までを幅広く支援。会計・税務、創業支援に加え、経営戦略コンサルティングの知見を活かした”戦略税務”や売上を伸ばすための”戦略マーケティング”に強みを持つ。
経営のための”裏ワザ”情報は、LINE、note、Youtubeでも配信中。                        
 プロフィール詳細へ
友だち追加
                                                       

この記事をSNSでシェア・保存