ストックオプションとは?税制適格の要件と税金を公認会計士が解説【令和6年改正対応】

ストックオプション(SO)は、スタートアップや成長企業が「いま払える給与」ではなく「将来の株式価値」で優秀な人材を採用するための、最も強力な報酬設計の道具です。ただし税務上は「税制適格」か「税制非適格」かで、手取りが大きく変わります。非適格なら行使時に給与として最大約55%の累進課税、適格なら売却時まで課税が繰り延べられ約20%の分離課税で完結します。
この記事では、国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」(令和6年11月最終改訂)などの一次情報に基づき、税制適格ストックオプションの要件・税金の違い・令和6年度改正のポイント・設計の失敗例を、公認会計士・税理士が解説します。
ストックオプションとは?
ストックオプションとは、あらかじめ決められた価格(権利行使価額)で、自社の株式を将来購入できる権利(新株予約権)です。たとえば「1株1,000円で買える権利」を付与された社員は、会社が成長して株価が10,000円になったときに権利を行使すれば、差額9,000円×株数分の利益(キャピタルゲイン)を得られます。
会社側は現金を使わずに報酬を設計でき、社員側は「会社の成長=自分のリターン」になるため、上場(IPO)やM&Aを目指す会社のインセンティブ設計として広く使われています。
税金が変わる分岐点:税制適格と税制非適格
ストックオプションの税務で最も重要なのが、租税特別措置法29条の2の要件を満たす「税制適格ストックオプション」に該当するかどうかです。課税のタイミングと税率が根本的に変わります。
| 税制適格SO | 税制非適格SO(無償) | |
|---|---|---|
| 付与時 | 課税なし | 課税なし(譲渡制限付きの場合) |
| 権利行使時 | 課税なし(課税繰延) | 給与所得として課税 (行使時株価-行使価額)に総合課税。住民税と合わせ最大約55% |
| 株式売却時 | 譲渡所得として約20%(所得税15.315%+住民税5%)の申告分離課税 | 譲渡所得として約20% (売却価格-行使時株価が対象) |
非適格SOの最大の問題は、権利行使した時点=まだ株を売って現金化していない時点で、給与課税が発生することです。未上場企業では株を売る市場がないため、「税金だけ先に来る」状態になりかねません。だからこそ、実務では税制適格の要件を満たす設計が原則になります。
税制適格ストックオプションの要件【一覧】
国税庁Q&A(令和6年11月最終改訂)に基づく主な要件は次のとおりです。1つでも外すと全体が非適格になるため、設計時は全項目のチェックが必須です。
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| 付与の形 | 無償で付与されること(付与時に金銭を払い込ませない) |
| 付与対象者 | 自社および子会社(50%超保有)の取締役・執行役・使用人。監査役・会計参与は対象外。未上場会社で発行済株式の3分の1を超えて保有する大口株主とその配偶者等の特別関係者も対象外。※経済産業省の認定を受ければ、弁護士・エンジニア等の社外高度人材にも付与可能 |
| 権利行使期間 | 付与決議の日から2年を経過した日から10年を経過する日まで。設立5年未満の非上場会社は15年まで延長(令和5年度改正) |
| 年間の権利行使価額の上限 | 年間合計1,200万円を超えないこと。ただし令和6年度改正により、設立5年未満の会社は権利行使価額を2で除して判定(実質2,400万円まで)、設立5年以上20年未満の非上場会社等は3で除して判定(実質3,600万円まで)に拡充 |
| 権利行使価額 | 付与契約の締結時における1株当たりの価額(時価)以上に設定すること |
| 譲渡制限 | 新株予約権自体の譲渡が禁止されていること |
| 株式の管理 | 行使で取得した株式は、証券会社等への保管委託、または(令和6年度改正で追加)発行会社自身による管理(譲渡制限株式に限る)がされること |
令和6年度改正の3つのポイント
① 年間権利行使価額の上限が実質2,400万円/3,600万円に
従来は一律1,200万円だった年間の権利行使価額の上限が、設立5年未満の会社は実質2,400万円、設立5年以上20年未満の非上場会社等は実質3,600万円まで拡大されました(権利行使価額を2または3で除して1,200万円と比較する判定方式)。レイターステージでの大型付与や、幹部人材の中途採用に使いやすくなっています。
② 発行会社による株式管理が可能に
従来は証券会社等への保管委託が必須で、未上場会社には実務負担が重い要件でした。改正後は、譲渡制限株式について発行会社自身が管理する方式も認められ、未上場スタートアップの導入ハードルが大きく下がりました。
③ 社外高度人材への付与の使い勝手が向上
認定を受けることで、社外のエンジニア・弁護士などの高度人材にも税制適格SOを付与できる制度(中小企業等経営強化法に基づく認定)の対象・要件も緩和が進んでいます。業務委託中心のチーム組成をするスタートアップは検討の価値があります。
有償SO・信託型SOとの違い
- 有償ストックオプション:公正価値で発行するため給与課税は生じにくい設計ですが、払込みが必要で、会計上は費用計上の論点があります。
- 信託型ストックオプション:かつて「給与課税を回避できる」とされていましたが、国税庁が令和5年のQ&Aで行使時に給与課税されることを明確化しました。既に導入済みの会社は、源泉徴収漏れがないか早急な確認が必要です。
設計でよくある失敗5選
- 行使価額の設定ミス:直前の資金調達価格等を無視した低すぎる行使価額は、時価以上要件を満たさず非適格になるリスクがあります。種類株式で調達している場合の普通株式の時価算定は専門的な論点です。
- 大口株主への付与:創業者(1/3超保有)に付与しても税制適格にはなりません。
- 年間1,200万円(改正後は判定額)超過:超えた年は超過分だけでなくその行使全体が非適格扱いになり得るため、行使スケジュール管理が必須です。
- 株式管理要件の漏れ:行使後の保管委託・発行会社管理の取決めを忘れると、最後の最後で適格性を失います。
- 資本政策との不整合:SO発行枠は上場時に10%程度が目安。無計画に発行すると、上場審査や次の資金調達で希薄化がネックになります。
導入の流れ
実務では、①資本政策の設計(発行枠・対象者・ベスティング条件)→②株価算定・行使価額の決定→③株主総会決議・付与契約→④税制適格性のチェック→⑤行使時・売却時の税務、という流れで進めます。当事務所では、資本政策・IPO支援サービスとして、SO設計から上場準備までを一気通貫でサポートしています。実際の支援事例は事例紹介もご覧ください。
よくある質問
Q1. 税制適格SOなら税金は一切かからない?
かかります。株式を売却した時点で、売却益全体(売却価格-権利行使価額)に約20%(所得税15.315%+住民税5%)の申告分離課税が生じます。「行使時に課税されない(繰り延べられる)」のが適格のメリットです。
Q2. 役員にも付与できますか?
取締役・執行役は付与対象です。ただし監査役・会計参与は対象外、未上場会社で発行済株式の3分の1超を保有する大口株主(多くの場合、創業社長)とその特別関係者も対象外です。
Q3. 退職したらどうなりますか?
税制上の要件ではありませんが、多くの付与契約では退職時に権利喪失とする条項を置きます。付与契約の設計(ベスティング・退職時取扱い)は、税務要件と同じくらい重要です。
まとめ
ストックオプションは「作ること」より「税制適格に作り、資本政策と整合させること」が本質です。令和6年度改正で使い勝手は大きく向上しましたが、要件は依然として細かく、1つのミスで手取りが半分近く変わります。導入・見直しの際は、株価算定と資本政策までセットで専門家にご相談ください。
出典(一次情報)
- 国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」(令和6年11月最終改訂)
- 国税庁 タックスアンサー No.1540 ストック・オプション税制の適用を受けて取得した株式を譲渡した場合
- 国税庁 タックスアンサー No.1543 税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について
- 経済産業省「社外高度人材に対するストックオプション税制」
※本記事は2026年7月時点の法令・公表情報に基づいています。個別の適用にあたっては顧問税理士等にご確認ください。

