法定福利費の会計処理と法人税・消費税【田中将太郎公認会計士・税理士事務所】
法定福利費の会計上、および税務上の取り扱いについて解説します。
法定福利費は、どの会社にもある非常に重要な勘定科目ですので、会計上および税務上の取り扱いを理解しておくことは、会社経営上必須です。
本記事は、田中将太郎公認会計士・税理士事務所の監修です。
所要時間: 3分
3ステップで解説していきます。
- 法定福利費とは
法定福利費にとは何かを説明します。
- 法定福利費の会計・税務上の取り扱い
法定福利費の会計・税務上の取り扱いについて解説します。
- 法定福利費の消費税の課税区分
法定福利費は消費税の取り扱いも気を付ける必要があるので、解説します。
法定福利費とは
まずは法定福利費とは何かについて説明します。
法定福利費の定義
法定福利費とは、法律等で定められた従業員等の福利厚生のために支出する費用のことです。
福利厚生とは、企業や個人事業主などの事業主が従業員に対して通常の給与や賃金に加えて別途支給する非金銭的な報酬を指します。
そのため、法定福利費は、事業主が従業員に対して支給する非金銭的な報酬のうち、法律で定められた支出を指します。
法定福利費の内容
それでは、具体的にどんな支出が法定福利費になるのでしょうか?
簡単に言うと、社会保険料と言われる支出を指します。
具体的には、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、労災保険料、雇用保険料の5つが主な法定福利費となります。
健康保険料
健康保険料とは、被保険者が病気やケガの治療を行う際にかかる医療費の一部を健康保険制度の範囲内で肩代わりするための財源となる医療保険料です。
この保険料は、企業と従業員で半分ずつ支払われます。それにより、被保険者となる従業員やその家族が傷病や出産等で医療制度を利用する際に、医療費の一部が健康保険から支給されます。
これとよく似た名前の国民健康保険があります。国民健康保険は、自営業者や働いていない人に対して同様のサービスを提供する公的な保険制度です。
厚生年金保険
老後もしくは障害・死亡の際に給付される厚生年金制度の財源となる保険料です。
従業員がいる企業の場合は、加入が義務付けられています。老齢、障害、死亡等を対象として従業員に対して支給される保険制度です。
保険料は、健康保険料と同様に企業と従業員で折半されます。
加入対象は、70歳未満の従業員です。その他の対象要件は、健康保険とほぼ同様です。
なお、国民年金は日本に住むすべての人が加入する年金制度です。厚生年金は、企業に属する人が加入するものであり、厚生年金保険料を支払っておくことで、年金の受給時には、国民年金の額に上乗せされて支給されます。
介護保険
介護保険料は、介護保険制度の財源となる保険料です。その名の通り、介護保険サービスを受けるための保険になります。
従業員が40歳以上になると強制的に加入することになります。健康保険料や厚生年金保険料と同様に企業と従業員で折半して負担されることになります。
労災保険
労災保険料は、業務中や通勤中に起こった病気やケガ、死亡などに対して支給される労災保険制度の財源となる保険料です。
こちらは、企業が必ず加入しなければならない保険料で、その保険料は全額を企業が負担します。この点、企業と従業員が折半して負担する健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料とは異なるので注意が必要です。
雇用保険
雇用保険料は、失業保険や育児休業や介護休業などの際に支給される各種手当の財源となる保険料です。
保険料は企業が一定額を負担し、従業員が残りを支払います。健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料のように折半でもなければ、労災保険のように企業の全額負担でもありません。
法定福利費と福利厚生費の違い
法定福利費と似たような名前の費用に福利厚生費があります。両方とも従業員の福利厚生のために支出される費用という点で共通点があります。
しかし、法定福利費は、法律で定められた費用であるのに対し、福利厚生費は企業の任意で支出される費用になります。
両者は、明確に区別しておいてください。
法定福利費の会計・税務上の取り扱い
法定福利費は、会計上は費用として計上し、税務上は損金として計上されます。
しかし、従業員に掛けられる保険料全額が費用または損金として計上されるわけではないことを注意してください。
前述したように法定福利費のほとんどが、一部を企業負担、残りが従業員負担となります。そのため、会計、税務上は、企業負担分のみ会計上は費用とし、税務上は損金とすることになります。
この点、従業員からの預かり時と社会保険料の支払い時を分けて考える必要があります。
その種類に応じて、企業と従業員が各割合ずつ支払う必要があります。企業側の支払う分については、会計上では法定福利費の勘定科目で処理することになります。また、従業員の支払う分については、企業側が給与からあらかじめ天引きして企業側の支払う分と合わせて納めた上で、預り金勘定によって計上することになります。
関連記事:「税理士が教える飲食費の経費計上・節税対策(交際費、会議費、福利厚生費)」
社会保険料の従業員負担分の費用計上
社会保険料は、従業員負担分も企業負担分も両方とも企業が合わせて支払います。そのため、従業員負担分は以下のように会計上は仕訳処理します。税務上も同様です。
借方 | 貸方 |
---|---|
給料 | 預り金 |
この仕訳は、給料の一部を社会保険料として預かっているという意味になります。
社会保険料の企業負担分の費用計上
社会保険料の企業負担分は、会計上は費用計上でき、税務上は損金計上を行うことができます。
費用計上時は、以下のように仕訳処理します。
借方 | 貸方 |
---|---|
法定福利費 | 未払費用 |
社会保険料の支払い時の処理
社会保険料の支払い時は、従業員からの預かり分と企業負担分を合わせて次のように仕訳計上します。
借方 | 貸方 |
---|---|
預り金 | 現金および預金 |
未払費用 | 現金および預金 |
法定福利費の消費税の課税区分
社会保険料に支払いに係る消費税は「非課税」となります。
社会保険料については、消費に負担を求める税としての性格から課税の対象としてなじまないものという観点や社会政策的配慮から、消費税の課税を行わない「非課税取引」として扱われています。
参考:国税庁ホームページ「No.6201 非課税となる取引」
なお、社会保険以外の養老保険などの保険料の支払も消費税は「非課税」となっており、保険料は、消費に負担を求める税の対象としてなじまないものとして扱われています。
まとめ
法定福利費について理解が進んだでしょうか。法定福利費は、従業員をもつ企業にとっては非常に重要な勘定科目です。
会計上や税務上の扱いを理解して、適切な処理を行ってください。
また会社経営においても、福利厚生は、従業員の採用や定着化に非常に重要な要素です。
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