相続時精算課税制度とは
贈与するときは2,500万円まで非課税となりますが、贈与した人が亡くなった時には、遺産だけではなく、この制度を利用して贈与した財産も足し戻して相続税を課税する制度です。
※相続税の先送りができる制度です!
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- どんな人がこの制度を利用できるのか
この制度の対象となる方を解説していきます。
- 利用した方が良いケース
利用した方が良くなるケースを説明していきます。
- デメリット
留意すべきデメリットついて、解説していきます。
- 相続時精算課税制度を利用するための手続き
具体的な手続き方法を解説していきます。
どんな人がこの制度を利用できるのか
18歳以上の子又は孫が60歳以上の父母又は祖父母から財産を贈与された場合に利用できます。
※事業承継税制を適用する場合には、子又は孫以外にも適用が認められる場合があります。
18歳以上の子又は孫、60歳以上の父母又は祖父母とは
18歳以上の子又は孫とは贈与を受けた年の1月1日現在で18歳以上の子又は孫をいいます。
また、養子縁組をした子又は孫も年齢基準を満たしていれば適用があります。 ただし、養子がこの制度の適用を受けるためには、贈与を受ける日より前に、養子と養親という関係になっていなければならないので注意が必要です。
また、60歳以上の父母又は祖父母とは贈与をした年の1月1日現在で60歳以上の父母、祖父母又は養父母をいいます。
利用した方が良いケース
相続時精算課税制度を利用した方が良い人は下記の4つのいずれかに該当する人です。
なお、贈与する財産の種類や金額、贈与回数には制限はありません。
- もともと相続税が0円となる見込みの方
- 早期に財産を贈与したい方(相続時の争いを防止したい方)
- 値上がりが予想される財産をお持ちの方
- 収益性のある財産をお持ちの方
もともと相続税が0円となる見込みの方
相続税がかからない程度の財産を持っている人が、子や孫に110万円を超える贈与をしたいときには相続時精算課税を利用した方がお得になります。
なお、相続税がかからない程度の財産とは、将来に相続が生じた時の財産と今回の贈与財産が基礎控除額(詳細は前回記事)を超えなければ相続税はかかりません。
つまり、将来的に相続税のかかる心配はないですが、110万以上の贈与をしなければいけない事情のある人にとっては、相続時精算課税制度は有効となります。
早期に財産を贈与したい方(相続時の争いを防止したい方)
特定の人物に財産分与をしたい場合は、相続時精算課税制度を利用すれば、贈与税を抑えて多額の生前贈与ができるため、相続時の争いが防止できます。
例えば、会社経営をしている贈与者が、3人の子のうち1人を会社後継者にしたいと考えたとします。
もし生前贈与をしないまま亡くなった場合は法定相続人(配偶者・息子など)で遺産分割の協議が行われます。その場合、後継者に考えていた子ではなく違う相続人が会社の後継者になる可能性があります。
生前に贈与者が後継者に考えていた子に、相続時精算課税制度を使って会社の事業用資産や株などを贈与してしまえば、あとで相続人が揉めることもなくなります。
このように、贈与者に財産の相続配分に希望がある場合や、相続で争いが起きる可能性がある場合は、相続時精算課税制度を使った生前贈与を検討することをおすすめします。
将来値上がりが予想される財産をお持ちの方
将来値上がりすることが予想できる財産の贈与を受ける場合は、相続時精算課税制度を利用すれば節税になることがあります。
相続税の評価では相続時の時価により計算することとされてますが、相続時精算課税制度を適用して贈与した財産については相続時の時価ではなく、贈与時の時価を用いて計算されます。
そのため、不動産や株式など値上がりが予想される資産を持っている場合は、相続時精算課税制度を利用して早めにこれらの財産を分配しておけば節税となります。
収益性のある財産をお持ちの方
アパートやマンションなどの賃貸をしている収益物件がある場合にも相続時精算課税制度を利用すると節税ができます。
収益物件を子などに生前贈与をすれば、収益物件の不動産収入はそのまま贈与を受けた子などの収入になります。
もしこの収益物件を生前贈与せずに相続をすると、毎月得ていた不動産収入はそのまま相続財産(現金預金等)に組み込まれるため、多額の相続税が課税されます。
デメリット
以下の4つのデメリットを挙げさせて頂きます。
- 自動継続・取消不可
- 必ず贈与税の申告が必要になる。
- 小規模宅地等の特例が使えなくなる。
- 不動産の生前贈与はコストが増える
自動継続・取消不可
相続時精算課税制度選択届出書」を税務署に提出してしまうと、同じ贈与者からの贈与については、暦年贈与の基礎控除額(毎年110万円)が使えなくなります。
暦年課税との併用はもちろん、変更も撤回もできなくなります。
ただし暦年課税の基礎控除額(毎年110万円)が使えなくなるのは相続時精算課税制度を利用して贈与者からの贈与のみとなるので、他の贈与者からの贈与は暦年課税制度を利用することができます。
なお、令和6年1月1日以降の贈与では、相続時精算課税制度を選択した場合でも110万円の基礎控除を適用できるようになります。
「相続時精算課税制度」と「暦年課税制度」のどちらを適用した方が有利なのか、届出書を提出する前によく検討しましょう。
必ず贈与税の申告が必要になる。
暦年課税制度を適用する場合には110万円の範囲であれば申告義務はありませんが、相続時精算課税制度を適用する場合には110万円の範囲内であっても申告義務が生じます。
つまり、贈与額が1円であっても翌年3月15日までに必ず贈与税の確定申告をしなくてはなりません。
なお、令和6年1月1日以降の贈与については相続時精算課税制度を選択した場合でも110万円の範囲内であれば「相続時精算課税選択届出書」のみの提出となります。
小規模宅地等の特例が使えなくなる。
相続時精算課税制度でもっとも利用が検討されるのは、不動産ではないでしょうか。 自宅や事業用物件を贈与してしまうと相続税の節税で使える「小規模宅地等の特例」が使えなくなってしまいます。
贈与する土地について、小規模宅地等の特例の適用をすることができないのは、この特例が「相続」又は「遺贈(遺言で財産を相続すること)」でもらった土地についてのみ適用できると決められているためです。
※小規模宅地等の特例とは一定の要件を満たす状況で宅地等を相続した場合、その宅地等の相続税評価額が最大80%減額される特例です。
不動産の生前贈与はコストが増える
不動産を生前に贈与した場合、「不動産取得税」や「登録免許税」などの費用が増えます。
相続で不動産を取得した場合は、不動産取得税は課せられず、登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)のみとなりますが、贈与の場合には不動産取得税(固定資産税評価額の3%)と登録免許税(固定資産税評価額の2%)が課せられ、税負担が増します。
そのため相続で不動産を取得した場合と比較すると、生前贈与で不動産を取得した場合多くの費用負担がかかってまいります。
相続時精算課税制度を利用するための手続き
贈与年の翌年3月15日までに以下の2つの書類を税務署へ提出します。
(1)贈与税の申告書の提出
その年1月1日から12月31日までの間に相続時精算課税制度の適用を受ける財産の贈与を受けた人は、贈与を受けた財産の価額の合計額が非課税限度額2,500万円(前年以前に既に差し引いた金額があるときは、その金額を控除した残額)以下であっても、贈与税の確定申告書の提出が必要となります。
(2)相続時精算課税選択届出書の提出
相続時精算課税制度を選択する場合には、贈与年の翌年3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」を贈与税の申告書に添付して提出する必要があります。
つまり、2つの書類のうち1つでも提出が漏れたり、3月15日を過ぎてしまうと適用ができなくなってしまいます。
まとめ
相続時精算課税制度の概要や制度を利用した場合のメリットやデメリットについて簡単に解説しました。
ただし、この制度は複雑であり、後の相続税のことまで考える必要があります。
相続時精算課税制度は適した人が上手に使うと税負担を大幅に減らすことのできる方法ですが、一度選択すると撤回できないために利用に際しては慎重な判断が必要になります。
不安がある場合には税理士などの専門家に相談してアドバイスを受けるようにしましょう。