社会保険料の会社負担、「106万円の壁」撤廃で増加|税理士が解説

公開 2026.07.10 約6分で読めます 筆者:田中将太郎(公認会計士・税理士)

2026年10月をめどに、「106万円の壁」と呼ばれる社会保険の賃金要件が撤廃されます(2025年6月に成立した年金制度改正法で決定済み。政省令など運用の細部は今後変わる可能性があります)。この改正が実現すると、これまで扶養の範囲でパート従業員や配偶者に働いてもらっていた会社ほど、社会保険料の会社負担が増えることになります。本記事では、従業員本人の手取りではなく、経営者・会社側の社会保険料負担がどう変わるのかに焦点を当て、労使折半の仕組み、会社負担の試算例、今のうちにできる対策を公認会計士・税理士が解説します。なお制度の詳細は今後の法制化の状況によって変わる可能性があるため、本記事は現時点(2026年7月)で公表されている情報をもとにした内容です。

従業員本人の手取りがどう変わるかについては、年収の壁がなくなる?で個人の立場から詳しく解説しています。本記事では会社側の負担増と対策に絞って解説します。

そもそも「106万円の壁」撤廃とは何か

「年収の壁」には税金の壁と社会保険の壁があり、それぞれ別の制度です。まず整理します。

種類何が起きるか今後の動向
123万円税金(所得税)本人に所得税がかかり始める令和7年度改正で103万円から123万円に引き上げ済み
約160万円税金(配偶者特別控除)ここまでは配偶者側の控除が満額改正後も維持
106万円社会保険(賃金要件)本人が社会保険加入の対象になる(月8.8万円が目安)2026年10月に撤廃(改正法で決定済み)
130万円社会保険(被扶養者認定基準)扶養から外れる基準当面は維持

今回の改正で撤廃されるのは、このうち「106万円の壁(賃金要件)」です。残る基準は「週20時間以上働いているかどうか」で、賃金額にかかわらず、週20時間以上働けば社会保険に加入する形に変わります。あわせて、現行は「従業員51人超の会社」が適用対象ですが、この企業規模要件も2027年10月以降、段階的に撤廃されます(改正法で決定済み・具体的な区分や時期の細部は政省令によります)。小規模な会社ほど「うちは対象外」が通用しなくなる可能性がある点に注意が必要です。

会社の社会保険料負担はどう変わるのか(労使折半のしくみ)

健康保険・厚生年金の保険料は、原則として会社と本人が半分ずつ負担する「労使折半」です。これまで扶養の範囲で働き、社会保険料の本人負担がゼロだった人が新たに加入対象になると、本人負担が発生するのと同時に、ほぼ同額の会社負担も新たに発生します。つまり「106万円の壁」が撤廃されると、影響を受けるのは従業員本人だけでなく、会社の人件費そのものだということです。

【試算】パート・配偶者を雇う場合の会社負担増

目安として、月給9万円・週20時間以上で働く方を1人雇っているケースで試算します(標準報酬月額を基準にした概算です)。

項目改正前(扶養・社保未加入)改正後(社保加入)
本人の社会保険料負担0円月額約12,700円(年間約15万円)
会社の社会保険料負担増0円月額約12,000〜13,000円(年間約15万円が目安)
パート・配偶者が10人いる場合の会社負担増年間約150万円が目安(全員同条件と仮定した概算)

この試算はあくまで一定の条件をそろえた概算です。実際の負担額は、各従業員の標準報酬月額や協会けんぽ・厚生年金の最新の保険料率によって変わりますので、正確な金額は全国健康保険協会(協会けんぽ)の保険料額表で確認することをおすすめします。なお、会社が負担する社会保険料は法定福利費として損金算入できるため、法人税を考慮した実質的な負担増は、この試算より多少小さくなります。法定福利費の消費税上の扱いなど経理処理の詳細は、別記事でも解説しています。

負担が増える一方で、会社と従業員に生まれるメリット

社会保険への加入は負担増だけの話ではありません。従業員側には、将来受け取る厚生年金が上乗せされる、病気やケガで働けないときの傷病手当金(給与の約3分の2相当)、出産時の出産手当金といった保障が加わります。会社側にとっても、こうした保障の充実は採用競争力やパート従業員の定着につながる面があります。負担増と保障増加の両面を踏まえたうえで、対応を検討することが大切です。

経営者が今のうちにやるべき3つの対策

2026年10月の改正時期をめどに、会社として準備しておきたいことは次の3つです。

  • ①対象人数を棚卸しする:自社で「週20時間以上働いているが、扶養の範囲で社会保険に未加入」の従業員・配偶者が何人いるかを洗い出します。ここが改正後にコスト増となる人数です。
  • ②一人ひとりの働き方を再設計する:週20時間未満に抑えて扶養を維持する、社会保険に加入してしっかり働いてもらう、社長の配偶者であれば役員として報酬を再設計するなど、選択肢を整理して本人と相談します。ただし役員化は、勤務実態のない名目だけの役員報酬は税務上否認されるリスクがあるため、実行前に税理士・社会保険労務士への相談が必須です。
  • ③来期の予算に法定福利費の増加分を織り込む:改正後の負担増をあらかじめ資金計画に反映しておくことで、突然のコスト増に慌てずに済みます。

まとめ

「106万円の壁」の撤廃は、2026年10月をめどに検討が進んでいる制度改正で、扶養の範囲で働くパート従業員や配偶者を雇っている会社ほど、社会保険料の会社負担が増える可能性があります。制度はまだ確定していない部分もあるため、断定的な情報に振り回されず、最新の公式発表を確認しながら、自社の対象人数の把握と資金計画への織り込みを進めておくことが重要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 「106万円の壁」はいつから撤廃されますか?

2026年10月をに、賃金要件(月8.8万円)が撤廃されます(2025年6月成立の改正法で決定済み)。運用の細部は政省令で変わる可能性があるため、最新情報は日本年金機構の被用者保険の適用拡大に関する公式ページで確認することをおすすめします。

Q2. 130万円の壁もなくなるのですか?

130万円の壁(被扶養者認定基準)は106万円の壁とは別の制度で、当面は維持されます(金額基準の130万円自体は維持。なお2026年4月からは被扶養者の年収判定が労働契約の内容ベースに見直されています)。今回撤廃されるのは「106万円の壁(賃金要件)」である点に注意が必要です。

Q3. 会社の負担が増えるのはパート従業員だけですか?

週20時間以上働く方が対象になるため、パート・アルバイトに限らず、扶養の範囲で働く社長の配偶者やご家族も対象に含まれます。会社としては、雇用形態にかかわらず対象人数を早めに棚卸ししておくことが重要です。

この内容はYouTube動画でも解説しています。あわせてご覧ください。
田中将太郎 公認会計士・税理士YouTubeチャンネル

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出典・参考情報

※本記事で紹介した2026年10月の施行時期、企業規模要件の段階的撤廃(2027年〜)、130万円の壁の取り扱いは、いずれも検討・審議段階の内容を含みます。制度の詳細は今後変更される可能性があるため、実行にあたっては厚生労働省・日本年金機構の最新の公式発表を必ずご確認ください。会社負担の試算例は一定の条件を仮定した概算であり、実際の金額は個々の状況により異なります。自社の具体的な数値については税理士・社会保険労務士にご相談ください。

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