MS法人とは|医療法人との違い・節税メリットと違法にしない注意点

公開 2026.08.12 約6分で読めます 筆者:田中将太郎(公認会計士・税理士)

クリニックや医療法人の節税・経営を調べていると、必ず出てくるのが「MS法人」という言葉です。医師の節税策として紹介される一方で、「MS法人は違法では?」という不安の声も少なくありません。結論から言うと、MS法人は正しく使えば有効な選択肢ですが、実態のない業務委託や過大な委託料といった使い方をすると、税務上の否認や医療法人の非営利性との抵触といったリスクを招きます。本記事では、医療法人10法人以上を支援する公認会計士・税理士が、MS法人とは何か、医療法人との違い、節税メリット、そして「違法にしない」ための注意点を、厚生労働省・医療法の一次情報にもとづいて解説します。

結論:MS法人は「医療法人の周辺業務を担う一般会社」。使い方次第で節税にも否認リスクにもなる

MS法人は、医療機関そのものではなく、その周辺業務を引き受ける普通の会社です。医療法人・クリニックとは別に、代表者やその家族が株式会社・合同会社を設立し、そこに一定の業務を委託することで、所得の分散や資産の切り分けを図ります。重要なのは、MS法人が「実態のある業務」を「適正な対価」で行っていること。ここが崩れると、節税どころか追徴のリスクになります。順に見ていきます。

MS法人とは?(メディカルサービス法人)

MS法人とは「メディカルサービス法人」の略称で、医療機関の周辺業務を担う会社の通称です。法律上「MS法人」という制度が定められているわけではなく、実態は株式会社や合同会社といった一般の営利法人です。担う業務の例としては、医療機器や備品のリース・販売、建物・駐車場の賃貸、医薬品や診療材料の卸、受付・請求事務・清掃・給食などの業務受託、経営コンサルティングなどがあります。医療法人は行える事業に制限があるため、これらの周辺業務をMS法人に切り出すという発想です。

MS法人と医療法人の違い

項目医療法人MS法人
法的性格医療法にもとづく非営利法人会社法にもとづく営利法人(株式会社・合同会社)
剰余金の配当禁止(医療法第54条)可能(株主へ配当できる)
行える事業医療・付随業務に限定制限なし(一般の事業)
設立都道府県の認可が必要登記のみで設立可能
主な役割医療の提供周辺業務の受託・資産保有

MS法人を使う目的・メリット

所得の分散

医療法人・クリニックの利益の一部を、正当な業務委託料や賃料としてMS法人へ移し、MS法人から家族などへ役員報酬・給与を支払うことで、所得を分散できる場合があります。所得税は累進課税のため、一人に集中させるより分散したほうが世帯全体の税負担が軽くなることがある、という考え方です。

事業承継・資産の切り分け

医療法人は剰余金の配当が禁止され、持分あり医療法人では出資持分の評価が承継の壁になりがちです。不動産などの資産をMS法人側で保有・管理することで、資産と医療事業を切り分け、承継や資産管理をしやすくする狙いもあります。

消費税の設計(メリットにもデメリットにもなる)

社会保険診療は消費税が非課税のため、医療法人がMS法人へ支払う業務委託料にかかる消費税は、原則として仕入税額控除に使いきれず、コスト増になることがあります。一方で、課税売上をMS法人側に集約する設計が有利に働く場合もあります。消費税はMS法人の設計で結果が大きく変わるため、必ず事前にシミュレーションが必要です。

MS法人のデメリット・リスク

MS法人には、設立・維持コスト(登記費用、法人住民税の均等割、記帳・申告の手間)がかかり、社会保険もMS法人側で別途発生します。そして最大のリスクは、後述する「実態」と「対価の妥当性」を満たせない場合に、税務調査で委託料が否認され、追徴を受けることです。節税額よりコストやリスクが上回るケースもあるため、導入は費用対効果を冷静に見極める必要があります。

MS法人を「違法にしない」ための3つの注意点

①実態のある業務と適正な委託料(過大だと否認される)

MS法人への委託料や賃料は、実際に行われている業務・取引に見合った適正な金額でなければなりません。実態のない業務に対する支払いや、相場からかけ離れた過大な委託料は、税務上、損金として認められず、寄附金や役員給与と認定されるおそれがあります。同族関係者間の取引として、行為計算の否認の対象になることもあります。「いくら払うか」ではなく「その業務にいくらが妥当か」を、契約と記録で説明できる状態にしておくことが重要です。

②剰余金配当の禁止(医療法54条)と配当類似行為

医療法人は剰余金の配当が禁止されています(医療法第54条)。MS法人を使って、実質的に医療法人の利益を関係者へ分配するような形になると、この配当禁止の趣旨に反する「配当類似行為」とみなされるおそれがあります。MS法人は、あくまで独立した事業体として実態のある取引を行う建て付けが必要です。

③関係事業者との取引の開示義務

平成27年の医療法改正(平成29年施行)により、医療法人は、MS法人のような「関係事業者」との取引について、事業報告書等に記載して都道府県知事へ届け出ることが求められています(毎会計年度終了後3か月以内)。MS法人との取引は行政に対して透明化される前提であり、「見えないところで利益を移す」という発想は通用しません。適正な取引を、記録とともにオープンにできることが前提です。

よくある質問(FAQ)

Q1. MS法人を作れば必ず節税になりますか?

いいえ。所得分散のメリットがある一方、設立・維持コスト、社会保険料の追加負担、消費税の増加といったデメリットもあります。実態のある業務と適正な委託料が前提であり、条件が整わないと節税効果が出ないどころか、否認リスクを負うことになります。導入前に必ずシミュレーションが必要です。

Q2. MS法人は違法なのですか?

MS法人という仕組み自体が違法なわけではありません。問題になるのは、実態のない業務委託や過大な委託料など、租税回避や医療法人の非営利性を逸脱する使い方です。実態のある取引を適正な対価で行い、関係事業者取引として適切に開示していれば、有効な選択肢になり得ます。

Q3. 医療法人でなく個人クリニックでもMS法人は使えますか?

使えます。個人開業のクリニックでも、周辺業務を担うMS法人を設けるケースはあります。ただし、所得分散や消費税の効果は規模・診療科・自由診療比率などで変わるため、個別の試算が欠かせません。

MS法人は、正しく設計すれば有効ですが、実態と対価の妥当性を欠くと否認リスクに直結します。医療法人・クリニックの節税やMS法人の活用をご検討の際は、無料相談・お問い合わせからお気軽にご相談ください。医療特化の公認会計士が、シミュレーションから設計・運用までご支援します。

関連する発信はYouTubeでも行っています。あわせてご覧ください。
田中将太郎 公認会計士・税理士YouTubeチャンネル

出典・参考情報(厚生労働省・医療法)

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務判断を保証するものではありません。実際のMS法人の設立・運用にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。監修:公認会計士・税理士 田中将太郎

RELATED / 関連記事

あわせて読みたい。

読むだけで終わらせない。

クラウド会計の導入、税務顧問の切り替え、資金調達まで。初回相談は無料です。