株で儲けた翌年、国民健康保険料が跳ね上がる?個人事業主が確定申告前に知るべき「申告不要」の判断基準
この記事は、国民健康保険(国保)に加入している個人事業主・フリーランス・経営者の方が、「株や投資信託の利益・配当を確定申告すべきかどうか」を判断するための記事です。証券口座で利益が出た年の確定申告のやり方ひとつで、翌年度の国民健康保険料が数十万円単位で変わることがあります。実際の計算例と、申告する・しないの判断基準を解説します。
先に結論
- 国保料は前年の「総所得金額等」から基礎控除43万円を引いた額に料率(東京23区の例で合計13%超)を掛けて計算される。確定申告した株の譲渡益・配当は、損益通算・繰越控除等を反映した後の金額がこの計算の対象に含まれる
- 譲渡益は特定口座(源泉徴収あり)なら口座ごとに、上場株式等の配当は大口株主等を除き原則として口座区分とは別に、申告不要を選べる。申告不要を選んだ分は国保の計算に含まれない(国税庁も明記する正規の選択肢)
- 「所得税だけ申告して住民税は申告不要」といういわゆる「いいとこ取り」は、令和6年度分(令和5年分の申告)から廃止済み
- 申告するか迷ったら、「申告による税還付等 − 国保増加額 + 増加した国保料の社会保険料控除による後年の所得税・住民税軽減 ± 扶養・介護保険料等への影響」で判断する。国保見込額は自治体の料率・年齢・基礎控除・賦課限度額・損益通算等を反映して計算する(「所得×料率」は限度額等にかからない場合だけの一次概算)
国民健康保険料はどう決まるか——「前年の総所得金額等」がすべての起点
国民健康保険料の所得割は、前年の総所得金額等から基礎控除43万円を差し引いた額(賦課基準額)に、自治体ごとの料率を掛けて計算されます。たとえば東京都中野区の令和8年度料率は、医療分8.03%・支援金分2.94%・介護分(40〜64歳)2.53%・子ども・子育て支援金分0.27%の合計13.77%です(このほかに均等割があります)。
ここで重要な点が2つあります。
- 前年ベースで計算される——利益が出た翌年度に保険料へ反映されます
- 各種所得控除は使えない——社会保険料控除や生命保険料控除は国保の計算では引かれず、引けるのは基礎控除43万円だけです
そして、この「総所得金額等」には事業所得だけでなく、確定申告した上場株式等の譲渡益や配当も、損益通算・繰越控除等を反映した後の金額で含まれます。中野区の案内にも、特定口座(源泉徴収あり)の所得は原則として総所得金額等に含めない一方、「確定申告や都民税・特別区民税の申告をした場合は、国民健康保険料の算定基礎に含まれます」と明記されています。
なお、会社員の健康保険料は給与(標準報酬月額)ベースで決まるため、金融所得を申告しても保険料は変わりません。この論点は、国保に加入している個人事業主・フリーランス、そして国保・後期高齢者医療・介護保険の被保険者に固有のものです。
計算例:株の利益500万円を確定申告すると、国保料は年71万円→113万円
45歳・単身・東京都中野区在住、事業所得500万円の個人事業主をモデルに、令和8年度料率で概算します(均等割の軽減措置などは考慮していません。料率・限度額は自治体と年度により異なります)。
通常の年(事業所得500万円のみ)
| 区分 | 計算 | 年額(概算) |
|---|---|---|
| 賦課基準額 | 500万円 − 基礎控除43万円 | 457万円 |
| 医療分 | 457万円×8.03%+均等割47,100円 | 約41.4万円 |
| 支援金分 | 457万円×2.94%+均等割17,400円 | 約15.2万円 |
| 介護分(40〜64歳) | 457万円×2.53%+均等割17,700円 | 約13.3万円 |
| 子ども・子育て支援金分 | 457万円×0.27%+均等割1,873円 | 約1.4万円 |
| 合計 | 約71.3万円 |
特定口座(源泉徴収あり)の譲渡益500万円を確定申告した翌年度
| 区分 | 計算 | 年額(概算) |
|---|---|---|
| 賦課基準額 | (500万円+500万円)− 43万円 | 957万円 |
| 医療分 | 賦課限度額に到達 | 67万円(上限) |
| 支援金分 | 賦課限度額に到達 | 26万円(上限) |
| 介護分 | 賦課限度額に到達 | 17万円(上限) |
| 子ども・子育て支援金分 | 957万円×0.27%+1,873円 | 約2.8万円 |
| 合計 | 約112.8万円(賦課限度額113万円にほぼ到達) |
差額は年間約41万円。譲渡益500万円には既に源泉徴収で約102万円(20.315%)の税金が課されているため、国保増加分と合わせた負担率は、社会保険料控除による後年の税軽減を考慮する前の一次的なキャッシュ負担率で約29%になります。増加した国保料は支払った年の社会保険料控除の対象となるため(国税庁No.1130)、翌年以降の課税所得と限界税率に応じて所得税・住民税が軽減され、最終的な負担率はこれより下がります。それでも「投資の税金は約20%」という理解のままだと、想定外のキャッシュ負担が翌年度にやってきます。
ポイントは、このモデルケースでは申告義務がないのに申告した結果、約41万円の負担増になっていることです。特定口座(源泉徴収あり)であれば、申告しなければ税金は源泉徴収で完結し、国保料は通常年のままでした。
「申告不要」を選べる範囲は「譲渡益」と「配当」で異なる
まず譲渡益(売却益)は、どの口座で利益が出たかで扱いが決まります。
| 口座の種類(譲渡益) | 税金 | 確定申告 | 国保への算入 |
|---|---|---|---|
| 特定口座(源泉徴収あり) | 20.315%の源泉徴収で完結 | 申告するかしないか口座ごとに選べる | 申告しなければ算入されない |
| 特定口座(源泉徴収なし) | 源泉徴収されない | 原則、申告義務あり | 算入される |
| 一般口座 | 源泉徴収されない | 原則、申告義務あり(損益計算も自分で行う) | 算入される |
| NISA口座 | 売却益は非課税 | 申告対象にならない | 算入されない |
譲渡益について「申告不要」という正式な選択肢を選べるのは源泉徴収ありの特定口座だけです。国税庁タックスアンサーNo.1476にも「源泉徴収口座内の上場株式等の譲渡による所得を申告不要とすることができます」「口座ごとに、申告するまたは申告不要とすることの選択をすることができます」と明記されています。租税特別措置法が用意した正規のルートであり、脱税や抜け道の類ではありません。
一方、上場株式等の配当は扱いが異なります。大口株主等が受け取るものを除き、支払時に源泉徴収されており、特定口座に受け入れているかどうかとは別に、原則として確定申告不要制度を選択できます。選択の単位は原則として1回に支払を受ける配当等ごと(源泉徴収口座に受け入れた配当等については口座ごと)です(国税庁No.1330・No.1331)。ただし、源泉徴収口座内の上場株式等の譲渡損失を確定申告する場合には、その口座に受け入れた配当・利子等を申告不要とすることはできず、併せて申告する必要があります(国税庁No.1476)。配当等だけを申告不要にはできない点に注意してください。
源泉徴収なしの特定口座や一般口座の譲渡益には、原則として申告義務があるため、「国保に算入されない出し方」自体が存在しません。まずご自身の特定口座が「源泉徴収あり」になっているかを確認してください。
「住民税だけ申告不要」の抜け道は令和6年度分から廃止済み
かつては、所得税では申告して還付を受け、住民税側だけ申告不要を選ぶ——国保は住民税側の所得で計算されるため、還付も取れて国保も上がらない——という選択が可能でした。しかし、令和6年度分(令和5年分の確定申告)から、所得税と住民税で異なる課税方式を選択することはできなくなりました(東京都北区の案内等で確認できます)。確定申告をすれば、住民税・国保料等にも必ず反映されます。古い記事や動画の知識のまま申告している方は注意してください。
また、申告した金融所得が影響するのは国保だけではありません。65歳以上の介護保険料、75歳以上の後期高齢者医療保険料も前年の所得をもとに計算されるほか、住民税の非課税判定や、家族の扶養判定(配偶者控除・扶養控除)にも影響し得ます。扶養に入っている配偶者の口座で利益を申告した結果、扶養から外れるケースもあります。
申告する・しないの判断基準——「還付額」と「国保の実際の増加見込額」を比べる
申告した方が有利なケースも確かにあります。判断式は、「申告による税還付等 − 国保増加額 + 増加した国保料の社会保険料控除による後年の所得税・住民税軽減 ± 扶養・介護保険料等への影響」です。国保料の計算自体では基礎控除43万円しか引けない一方、支払った国民健康保険料は、支払った年の所得税・住民税で全額が社会保険料控除の対象になります(国税庁No.1130)。したがって、申告で増えた国保料も、翌年以降の課税所得と限界税率に応じて一部が税軽減として戻ってきます。この後年の税軽減まで含めて比較してください。国保見込額は、お住まいの自治体の料率・年齢(介護分の有無)・基礎控除・各区分の賦課限度額・損益通算や繰越控除後の所得を反映して計算します。「申告する所得×所得割率(概ね10〜14%)」という掛け算は、賦課基準額が賦課限度額等にかからない場合に限って使える一次概算にすぎません。実際、前述の500万円の例では、500万円×13.77%は約68.9万円ですが、賦課限度額が適用された実際の増加額は約41.4万円でした。以下、代表的なパターンを概算で検算します(いずれも中野区・令和8年度料率・40〜64歳・各賦課限度額に達しない前提です)。
ケースA:損益通算——多くの場合はプラスだが、還付の半分近くが目減りする
A証券で利益100万円、B証券で損失60万円が出ている場合。両方の口座を申告して損益通算すると、損失60万円分の税金約12.2万円が還付されます。一方、通算後の利益40万円が国保に算入され、所得割率13.77%なら約5.5万円の増額。差し引き約6.7万円のプラスです。なお、増加した国保料約5.5万円は支払った年の社会保険料控除の対象となるため(国税庁No.1130)、後年の税軽減まで含めれば実際のプラス幅はもう少し大きくなり得ます。
損益通算は得になることが多いものの、還付の半分近くが国保で目減りする点は織り込んでおくべきです。また、申告は口座ごとに選べるため、通算に関係ない口座まで申告書に載せないことも重要です。載せた分だけ算入額が増えます。さらに、源泉徴収口座内の譲渡損失を確定申告する場合、その口座に受け入れた配当・利子等も併せて申告する必要があり、配当等だけを申告不要にはできません(国税庁No.1476)。この例でB証券口座(損失口座)に受け入れた配当等があれば、それも申告対象となり国保に算入され得るため、国保への影響試算に含めてください。
ケースB:配当控除——前提次第で還付が国保増に相殺される
配当控除(10%)の対象となる国内上場株式の配当100万円を受け取った個人事業主で、配当を加える前の課税総所得が概ね195万円以上230万円以下(配当を加えた後も330万円以下)の場合を試算します。総合課税で申告して配当控除を使うと、概算で約13.1万円の還付(所得税の還付約15.3万円から住民税の増加約2.2万円を差し引いた額)を受けられます。しかし、配当100万円が国保に算入されて約13.8万円の増額(中野区・令和8年度の所得割率13.77%・40〜64歳・各賦課限度額に達しない前提)。差し引きは、増加した国保料の社会保険料控除による後年の税軽減を考慮しない場合で、約7千円のマイナスです。
ただし、増加した国保料約13.8万円は支払った年に全額が社会保険料控除の対象となります(国税庁No.1130)。たとえば支払う年の課税総所得が上記と同水準(限界税率が所得税10%+住民税10%程度)で推移するなら、約2.8万円の所得税・住民税の軽減が見込まれ、これを織り込むと差し引きはプラスに逆転し得ます。損得は、将来の課税所得・限界税率・保険料の支払時期に依存するということです。
また、この結果は上記の前提にも依存します。配当を加える前の課税所得が概ね195万円以下(所得税率5%の範囲)の場合は還付額が大きくなり、申告した方が有利になることもあります。逆に、外国株式やJ-REITの分配金はそもそも配当控除の対象外です(国税庁No.1250)。還付金はすぐ振り込まれる一方、国保の増加は1年後に来るため気づきにくく、前提が少し違うだけで損得は入れ替わります。配当控除の申告を検討する場合は、必ずご自身の課税所得と自治体の料率で、国保への影響と社会保険料控除の税軽減まで含めて個別に試算してください。
ケースC:繰越控除——「国保は控除後・扶養は控除前」に注意
損失が大きく通算で引き切れない場合、翌年以後3年間の繰越控除が使えます(国税庁No.1474)。ただし、株を売らなかった年も含めて連続して確定申告を続けることが条件です。
翌年に繰越損失と利益をぶつける場合、国保の「総所得金額等」は原則として繰越控除を適用した後の金額で計算されるため、相殺で消えた利益の分まで国保が上がることは基本的にありません。一方、扶養判定に使う「合計所得金額」は繰越控除を適用する前の金額で見られます。繰越控除で利益をゼロにしたつもりでも、扶養から外れることがある——税理士でも判断を誤りやすい論点です。ご家族の口座が絡む場合は、申告前に専門家へ確認することをおすすめします。
NISAは国保に無関係——そして「申告不要」を巡る今後の動き
NISA口座内の売却益は非課税で申告対象にならないため、国保の計算にも影響しません(金融庁NISA特設サイト)。配当・分配金も非課税ですが、1つ注意点があります。NISAで保有する国内上場株式・ETF・REITの配当等が非課税となるのは、証券会社経由で受け取る「株式数比例配分方式」を選択している場合に限られます(国税庁No.1535)。それ以外の受取方式(配当金領収証方式や銀行口座への振込等)では20.315%が源泉徴収され、配当控除や譲渡損失との通算を目的に確定申告することもできますが、申告すれば国保に算入されます。なお、この受取方式の問題は上場株式・ETF・REITの配当等に固有のもので、非上場の投資信託の分配金は販売会社経由で支払われるため該当しません。「投資をすると国保が上がる」のではなく、「課税口座の利益や、非課税扱いとならなかった配当を確定申告すると上がる」——ここを正確に押さえてください。
なお、「申告の有無で保険料が変わるのは公平性に欠ける」という問題意識は、すでに法改正として形になっています。2026年(令和8年)5月29日に「健康保険法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第31号)が成立し、同年6月5日に公布されました。この改正により、後期高齢者医療制度では、確定申告の有無にかかわらず、金融機関等が提出する法定調書をもとに上場株式の配当等の金融所得を保険料の算定や窓口負担割合等の判定に反映する仕組みが、公布後5年以内の政令で定める日に施行される予定です。NISA口座内の非課税の金融所得は、厚生労働省の資料で保険料等への勘案の対象外とされています。施行までは現行どおり「申告しなければ算入されない」ルールが続きます。一方、国民健康保険への同様の仕組みの拡大は今回の改正には含まれておらず、引き続き検討課題とされています。国保加入者も、今後の制度改正の動向には注意が必要です。
よくある質問
Q1. 会社員でも株の利益を申告すると健康保険料が上がりますか?
上がりません。会社員の健康保険料は給与(標準報酬月額)で決まるため、金融所得の申告は保険料に影響しません。この記事の論点は、国保・後期高齢者医療・介護保険の被保険者に固有のものです。
Q2. すでに申告してしまった場合、後から「申告不要」に変更できますか?
課税方式の選択を申告後に変更できるかは、申告の状況や時期によって結論が大きく変わる個別性の高い論点です。安易に判断せず、お早めに税理士へご相談ください。
Q3. 個人事業主の確定申告そのものについて知りたいのですが。
青色申告・白色申告の違いと選び方は、青色申告・白色申告とは?で解説しています。
申告書を出す前に、「税金」と「保険料」の両面から検討していますか?
田中国際会計事務所では、個人事業主・経営者の方向けに、確定申告や資産運用に関する税務を含む会計・税務顧問サービスを提供しています。損益通算・配当控除・繰越控除と社会保険料への影響を含めた申告方針のご相談は、お問い合わせからどうぞ。
このテーマは、田中将太郎のYouTubeチャンネルでも動画で解説しています。最新の動画はYouTubeチャンネル(@shotaro-tanaka)からご覧ください。
参考(一次情報・2026年7月30日確認)
- 国税庁 No.1476 特定口座制度
- 国税庁 No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)
- 国税庁 No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)
- 国税庁 No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度
- 国税庁 No.1250 配当所得があるとき(配当控除)
- 国税庁 No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除
- 国税庁 No.1180 扶養控除
- 国税庁 No.1130 社会保険料控除
- 中野区 国民健康保険料の計算方法(令和8年度)
- 北区 所得税と異なる課税方式の選択廃止(令和6年度〜)
- 国税庁 No.1535 NISA制度
- 国税庁 No.2260 所得税の税率
- 金融庁 NISA特設ウェブサイト
- 厚生労働省 医療保険制度改正法が成立しました
- 厚生労働省 健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)の概要
- 厚生労働省 医療保険における金融所得の勘案について(社会保障審議会医療保険部会 資料)
※本記事の保険料の計算例は、東京都中野区・令和8年度料率による概算です(均等割の軽減措置等は考慮していません)。料率・賦課限度額は自治体・年度により異なります。申告要否・課税方式の選択は個別性が高いため、実行前に税理士等の専門家にご相談ください。