マイクロ法人の会社設立(個人事業主の節税、社会保険効率化)【田中将太郎公認会計士・税理士事務所(田中国際会計事務所)】
最近は、オンラインなどで個人で仕事を受注してフリーランスとして活動する個人事業主が増えてきました。また、正社員よりも業務委託で仕事を受けるというような働き方もどんどん増えてきています。
そのような環境下、よく「マイクロ法人」という言葉を耳にするようになりました。
そこで今回は、「マイクロ法人」とは何か、マイクロ法人を設立するメリットやデメリットは何かを解説していきたいと思います。
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マイクロ法人のマネジメントについて、顧問の公認会計士、税理士をお探しでしたら、田中国際会計事務所(田中将太郎公認会計士・税理士事務所)までお問い合わせください。
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次の3ステップで説明していきます。
- マイクロ法人とは
まずはマイクロ法人とは何かを解説します。
- マイクロ法人のメリット
次に、マイクロ法人を作るメリットを解説します。
- マイクロ法人の注意点
最後にマイクロ法人を作る場合の注意点を解説します。
マイクロ法人とは
マイクロ法人とは、明確な定義があるわけではありません。一般的には、社長1人で運営する”プライベートカンパニー”のようなものをマイクロ法人と読んでいます。
マイクロ法人の事業内容
マイクロ法人の事業内容は、非常に様々です。IT業、不動産投資、株式投資、ブログ運営、EC、美容師、講師業、保険など、色々とありますが、一般的には、個人が中心となって行う事業がメインです。
マイクロ法人の法人形態
マイクロ法人は、特定の法人形態(株式会社、合同会社など)結びついていないため、基本的にはどのよう法人形態でも問題ありません。
しかし、会社設立コストの低さや運営の楽さから、合同会社を選択するケースが多いです。
株式会社と合同会社の違いや法人の設立コストについて、以下の記事を参考にしてください。
◆参考記事:「会社設立費用はどれくらいか?【公認会計士が徹底解説】」
◆参考記事:「数字で見る会社設立【会社設立数編】株式会社と合同会社を公認会計士・税理士が徹底比較」
◆参考記事:「合同会社とは【公認会計士・税理士が徹底解説】」
マイクロ法人のメリット
そもそも、なぜマイクロ法人を設立するのでしょうか?
通常の法人の場合には、事業を運営して利益を上げ、株主などの会社の所有者に(キャピタルゲインやインカムゲインにより)利益還元することを最大の目的としています。
一方で、マイクロ法人の場合は、そのような目的の法人とは全く異なります。
語弊を恐れずに言うのであれば、マイクロ法人の目的は、税金の節約(いわゆる節税)や社会保険の効率化にあります。
マイクロ法人のメリットとして、大きくわけると税金対策(いわゆる節税対策)と社会保険対策の2つです。
1.1. 税金対策:法人税率と所得税の差を活用
一般的に、個人事業主で利益を出すよりも法人で利益を出した方が払う税金は少なくて済みます。
個人の所得税は累進課税のため、所得が高ければそれだけ税率が高くなります。一方で、法人の法人税は、基本的には一定の税率のため、利益が伸びても税率は変わりません。
たとえば、ざっくりとした計算でその違いを試算してみます。
法人と個人でそれぞれ1億円の利益を出した場合、個人の場合は、約5,500万円(1億円×55%)の税金がかかりますが、法人の場合は、約3,500万円(1億円×35%)となります。1億円の利益で考えると2,000万円も税金が異なってきます。
そのため、儲かれば儲かる程、法人の方が有利ということになります。
個人事業主と法人のどちらが有利かは、売上額、利益額やその他の条件によって異なってきますので、法人化をする前に専門家に相談してみてください。
<個人事業主の所得税>
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
個人が払う税金は、上記の所得税に加え、10%の住民税が加算されます。
1.2. 税金対策:経費として計上できる範囲が広い
法人では、個人よりも、損金算入(経費計上)できる範囲が広い傾向にあります。経費(損金)にできる範囲が広く認められています。
たとえば、以下のような物が考えられます。
・家賃
・出張手当
・生命保険
家賃
法人には、社宅制度として、実質的に、役員や従業員の自宅の家賃を一部肩代わりして支払うことができます。
まずは、会社で借り上げて社宅として、会社が家賃を支払い、家賃の一部を役員や従業員から収受するプロセスをとることで、実質的に役員や従業員の家賃の一部を会社の損金として計上することができます。
この点、個人事業主でも家事按分することで家賃を経費とできますが、経費にできるのは10~20%程度でしょう。かなりリスクをとった場合でも50%程度です。
一方で、法人の社宅とした場合は、しっかりとした計算を行うことで、80~90%を法人の経費とすることができる余地があります。
出張手当
法人が出張旅費規程等を整え、それに基づいて合理的な金額の「出張手当」を支給するようにすれば、その金額は会社の損金として計上できます。
さらに、この出張手当は、所得税が非課税となりますし、社会保険料もかかりません。つまり、給料としてもらうよりも数十%お得に手取りを増やすことができます。
これは、あまり知られていませんが、絶対に法人がやるべき節税施策です。
法人保険
個人で生命保険、医療保険等に加入した場合、どれだけ高い金額を払っても「生命保険料控除」、「介護医療保険料控除」でそれぞれ最大4万円ずつしか控除できず、トータルで12万円までしか控除できません。
しかし、法人の場合は、保険料の一部を掛け金の大きさに比例して損金できます。ただし、法人の損金として計上できる保険は限定的なので、すべての保険が法人の損金算入(経費計上)できるとは限りません。保険に入る前にこのあたりをしっかりと精査することをオススメします。
1.3. 税金対策:所得分散効果を利用
個人事業主で事業を行っている場合、家族に事業を手伝ってもらうことがあると思います。
しかし、個人事業主のが、生計を同一にする家族に対して、給料を出そうとすると「専従者給与」となり「所得控除」になりますが、専従者とできるのは、その事業に専ら従事している家族に限られます。
つまり、メインの仕事をもっている家族に対して給料を出しても、原則的には、税務上の経費(損金)には認められません。
参考:「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」
一方で、マイクロ法人を作り、メインの仕事を持っている配偶者などの家族を法人の非常勤役員にすることで、役員である家族に対して役員報酬・賞与を払うことができます。これにより、所得分散効果が得られます。
すなわち、所得税の税率は累進税率なので、課税所得金額が高くなるほど、税率が高くなります。所得を1人で受け取るよりも、複数名で分けて受け取った方がトータルでの税金の支払いが少なくなる場合があります。
ただし、気を付けて欲しいのが、役員への報酬が、職務内容や会社の状況などと総合的に照らし合わせて過大であるとみなされると、過大分は損金に算入されません。したがって、役員報酬は常識の範囲内に留めておくこと、役員が経営に携わっている客観的な証拠(議事録など)を残しておくことが重要です。
1.4. 税金対策:欠損金の繰越期間が長い
法人でも個人事業主でも赤字だった場合は、その赤字を「欠損金」として翌期以降に繰り延べ、将来の利益と相殺して税金を計算することができます。
そのため、昨年、500万円の赤字が出たが、今年は1200万円の黒字が出た場合、今年の税金は、1200万円から前期に繰り延べた欠損金500万円を差し引いた700万円を課税所得して税金を計算できます。
つまり、税金=700万円×税率となります。
法人でも個人事業主でも両方とも欠損金の処理ができるので、同じかと思われたかと思います。
しかし、…
欠損金を繰り延べることができる長さが異なります。
青色申告している個人事業主の場合、欠損金は翌年から3年間繰り越すことができますが、法人の場合は10年間の欠損金の繰り越しができます。
2. 社会保険料が減る可能性がある
マイクロ法人を作ると社会保険料の支払い金額が減る可能性があります。
その最大の理由は、加入する公的保険の種類が異なるからです。
日本の国民皆保険制度では、全国民が何らかの公的保険に入ることになっています。
この制度は、国民に安定した暮らしを提供してくれる一方、それなりの金額の公的保険料の支払いも求めています。
加入する公的保険の種類は、次の2種類です。
1.国保:国民健康保険と国民年金
2.社会保険:健康保険と厚生年金
個人事業主の場合は、一般的には、「1.国民健康保険と国民年金」となります。
一方で、会社勤めをしている人は、「2.健康保険と厚生年金」となります。
マイクロ法人を設立して、マイクロ法人の役員になる場合は、役員報酬をもらうことになります。
法人は原則的に、役員に対しては、「2.健康保険と厚生年金」をかける必要があります。その結果、これまで個人事業主として活動していた人は、「1.国民健康保険と国民年金」から「2.健康保険と厚生年金」へと保険の種類が変更されることになります。
一概に、「1.国民健康保険と国民年金」と「2.健康保険と厚生年金」のどちらがお得というのは言えませんが、マイクロ法人の役員となって「2.健康保険と厚生年金」に加入した場合の方が保険料が低くなる可能性があります。
というのも、個人事業主の場合は、出た利益がすべて所得となるため、その利益に対して国民健康保険料が掛けられます。一方で、会社役員となった場合は、事前に決定した役員報酬の金額に対してのみ、社会保険料が掛けられますので、法人で多く利益を出していたとしても、役員報酬として支払いをしない限り社会保険料は増えないからです。
マイクロ法人設立の注意点
個人事業主がマイクロ法人を設立して、個人事業主とマイクロ法人の二刀流で運営していく場合、検討しておくべきリスクがあることをご理解ください。
マイクロ法人と個人事業主の事業内容の棲み分け
まず、個人事業主とマイクロ法人の2つで同時に運営していく場合は、全く同じ事業を行うことは基本的には認められません。
意図的な租税回避や社会保険回避として捉えられる可能性が高いです。
個人事業主としての活動と全く違う活動を法人で行っているおり、別に運営することが妥当であると考えられる必要があります。
この点は、しっかりと検討した上で、マイクロ法人の設立を行っていくことをオススメします。
法人の運営コスト
マイクロ法人を設立した場合、設立コストや運営コストがかかってきます。
設立コストについては、法人形態にもよりますが、6~25万円程度かかってきます。
また、会計や税務も法人の方が、個人事業主よりも複雑になるので、顧問税理士をつける必要性が高まり、コストが高くなります。
そのため、運営コストなども考慮して、ご検討ください。
参考記事:「税理士・公認会計士が教える「会社設立」【失敗しないためのコツを解説】」
参考記事:「会社設立費用はどれくらいか?【公認会計士が徹底解説】」
まとめ
マイクロ法人を作る場合のメリットや注意点を解説してきましたが、理解が深まりましたでしょうか?
事業を効率的に運営していきたいと考えている個人事業主の方は、田中将太郎公認会計士・税理士事務所、又は、田中国際会計事務所までお気軽にお問い合わせください。