マイクロ法人による社会保険料削減スキームとそのリスク

/
マイクロ法人

近年、社会保険料の負担を軽減するために「マイクロ法人」を活用するケースが増えてきています。このスキームは、主に個人事業主が社会保険料の節約を目指す際に使われる手法ですが、効果的に運用するためには、その仕組みやリスクを正しく理解することが重要です。この記事では、このスキームの概要とそのメリット、さらに注意すべき落とし穴について詳しく解説します。

またYoutube動画でも詳しく解説していますので、ご覧ください。

マイクロ法人とは?

まず、「マイクロ法人」とは何かについて説明します。

マイクロ法人とは、非常に小規模な株式会社や合同会社などの法人を指します。個人事業主が小さな法人を設立し、自身を役員として報酬を受け取ることで、社会保険料の計算方法や税制優遇の対象を変えることが目的です。

従来、個人事業主は「国民健康保険」と「国民年金」に加入する義務がありますが、マイクロ法人を設立し、その法人から役員報酬を得ることで、「健康保険」と「厚生年金」に切り替えることができます。この切り替えによって、個人事業主は保険料を削減しようとするのが、いわゆる「社会保険料の削減スキーム」です。

関連記事:マイクロ法人の会社設立

社会保険と国民保険の違い

このスキームを理解するには、まず「国保(国民健康保険)」と「社保(社会保険)」の違いを知る必要があります。

国民健康保険は、主に個人事業主や自営業者が加入する保険制度であり、国民年金とセットで支払われます。一方、社会保険(社保)は会社員や法人の役員が加入する制度で、健康保険と厚生年金が組み合わされています。

国保の場合、所得に応じた保険料が課され、特に高所得者にとっては非常に重い負担となります。一方、社保は役員報酬額に応じて計算されるため、役員報酬を低く設定することで、保険料を大幅に減らすことが可能です。

この違いを利用し、保険料の負担を軽減しようとするのが、マイクロ法人を活用する主な目的です。

参考:「国民健康保険制度」厚生労働省

社会保険料削減の仕組み

具体的には、個人事業主が自ら法人を設立し、そこで役員報酬を得ることで、社保へ加入します。この際、役員報酬額を低く設定することで、社会保険料の計算基礎となる報酬額を下げ、結果として支払う保険料を削減することができます。

例えば、年収500万円の個人事業主がマイクロ法人を設立し、役員報酬を月々20万円に設定すれば、健康保険や厚生年金の負担が大幅に減少します。一方で、国民健康保険や国民年金を続ける場合は、その所得に基づく高額な保険料を支払う必要があります。

このため、所得に応じて保険料が跳ね上がるケースが多い個人事業主にとって、この方法は非常に魅力的です。

スキームのメリット

この社会保険料削減スキームにはいくつかの大きなメリットがあります。

保険料の削減

役員報酬額をコントロールすることで、支払う社会保険料を効果的に削減できます。特に年収が高い個人事業主にとって、このスキームは大幅な負担軽減となる可能性があります。

法人化による信用力の向上

法人化することで、個人事業主よりも社会的信用度が高まり、取引先からの信頼や金融機関からの融資のハードルが下がることも期待されます。

税制面でのメリット

法人としての税制優遇措置を受けることが可能です。法人税率は個人の所得税率に比べて低い場合が多く、節税効果も期待できます。

落とし穴とリスク

しかし、このスキームには大きな落とし穴やリスクも存在します。正しく活用しなければ、かえってコストが増大する可能性があります。

社会保険料の増加リスク

そもそも社会保険は、国民健康保険よりも高額になることが一般的です。したがって、役員報酬の額を誤って高く設定してしまうと、かえって支払う保険料が大幅に増えてしまう可能性があります。また、役員報酬をあまりにも低く設定すると、税務署から「不自然な所得分配」とみなされ、調査の対象となるリスクもあります。

法人設立と維持のコスト

法人を設立するためには、登記費用や専門家への相談料、さらに法人維持にかかるコスト(会計や税務申告のための費用)も発生します。これらのコストを考慮に入れずに法人化を進めてしまうと、保険料削減以上に費用がかさむ可能性があります。

税務上の問題

法人化によって、個人事業主時代と異なる税制が適用されます。一部の業務を法人に移し、他の業務は個人事業として残すといった分割は、税務署に不自然と判断される恐れがあり、税務調査の対象になるリスクも考慮しなければなりません。

また、恣意的な報酬設定や利益分配が問題視されることもあるため、税理士や公認会計士などの専門家のアドバイスが必要です。

将来的な影響

社会保険料の削減は短期的にはメリットがありますが、将来的には年金受給額の減少や医療保険の範囲に影響を与える可能性があります。特に厚生年金は、受け取る年金額が報酬額に応じて決まるため、役員報酬を低く設定しすぎると、将来的に受け取る年金額が少なくなるリスクがあります。

スキームを成功させるためのポイント

このようなリスクを最小限に抑え、マイクロ法人を効果的に活用するためには、以下のポイントに注意することが重要です。

役員報酬の設定に注意

保険料削減のためには役員報酬を低く設定することが基本ですが、あまりにも低すぎると税務上のリスクが高まります。適正な報酬額を設定するためには、専門家のアドバイスを受けることが重要です。

関連記事:3分でわかる「役員報酬」のすべて

法人設立の目的を明確に

マイクロ法人を設立する際には、単なる保険料削減だけでなく、事業の発展や法人化のメリットをしっかりと考慮することが必要です。短期的なコスト削減だけでなく、長期的な視点で法人化のメリットを最大限に引き出すための戦略を立てましょう。

適切な税務管理

法人化後の税務管理は個人事業主時代とは異なります。法人の利益分配や経費計上など、税務面でのリスクを避けるためには、税理士や会計士の助言を受け、適切な管理を行うことが大切です。

将来の社会保障を考慮

現在の保険料削減が将来の年金や医療保険にどう影響するかを十分に考慮することも必要です。短期的な削減だけにとらわれず、老後の生活や医療の充実を視野に入れた計画を立てましょう。

まとめ

マイクロ法人を活用した社会保険料の削減スキームは、特に高額な保険料を負担している個人事業主にとって、大きな節約効果が期待できる魅力的な手法です。

しかし、役員報酬の設定や法人維持コスト、税務リスク、将来的な年金受給額の減少など、複数の落とし穴が存在します。このスキームを成功させるためには、十分な知識と慎重な計画が必要であり、専門家のアドバイスを受けながら進めることが不可欠です。

短期的なコスト削減だけでなく、長期的な視点からもメリットとデメリットを総合的に判断することが求められます。マイクロ法人の活用は、事業の規模や個人の状況に応じた最適な戦略を取ることで、最大限の効果を発揮しますが、その際にはリスクを十分に認識し、慎重に対応することが重要です。

田中将太郎 - Shotaro Tanaka

記事の筆者:田中将太郎

                       

(株)田中国際会計事務所 代表取締役
田中将太郎公認会計士事務所・税理士事務所 代表
東京都、北海道札幌市、宮城県仙台市に拠点を置き、個人事業主やスタートアップ企業から大企業までを幅広く支援。会計・税務、創業支援に加え、経営戦略コンサルティングの知見を活かした”戦略税務”や売上を伸ばすための”戦略マーケティング”に強みを持つ。
経営のための”裏ワザ”情報は、LINE、note、Youtubeでも配信中。                        
 プロフィール詳細へ
友だち追加
                                                       

この記事をSNSでシェア・保存