マイクロ法人で社保は本当に下がる?年60万円削減の条件と7つの落とし穴【2026年版】

公開 2024.09.18 更新 2026.07.11 約9分で読めます 筆者:田中将太郎(公認会計士・税理士)
マイクロ法人

マイクロ法人を作れば社会保険料が年60万円、条件によっては年100万円以上変わる——このような話を見聞きする機会が増えています。条件が揃えば本当ですが、社保が下がる仕組みだけを見て法人を作ると、法人の維持コスト・税務や社会保険上のリスク・将来の年金まで含めたときに、かえって損をする人もいます。本記事は令和8年度時点の最新の保険料・限度額をもとに、削減効果の試算と、マイクロ法人を作る前に必ず確認しておきたい7つの落とし穴を、公認会計士・税理士が解説します。

マイクロ法人の節税効果全般についてはマイクロ法人で節税は本当にできる?で解説しています。本記事は社会保険料削減の”条件とリスク”に絞って掘り下げます。

マイクロ法人で社会保険料が下がる仕組み—「二刀流」の考え方

マイクロ法人とは、規模をあえて小さく保つ、社長一人の法人を指します。ポイントは、個人事業とマイクロ法人を両方持つ”二刀流”の仕組みです。個人事業主が加入する国民健康保険・国民年金は前年の所得に連動して保険料が決まり、所得が高いほど上限近くまで跳ね上がります。一方、法人の役員として加入する健康保険・厚生年金は、役員報酬の金額(標準報酬月額)で保険料が決まるため、役員報酬を低く設定すれば、その分だけ保険料を抑えられます。

項目個人事業主単体個人事業+マイクロ法人(二刀流)
加入する公的保険国民健康保険+国民年金健康保険+厚生年金(法人で加入)
保険料の決まり方前年の所得に連動役員報酬の金額(標準報酬月額)で決定
個人事業の所得事業所得として課税事業所得はそのまま残る

【試算】いくら下がるのか—本人負担+法人負担の合計で比較する

ここで注意したいのは、「本人の給与から天引きされる金額」だけを見ないことです。マイクロ法人は自分の会社なので、法人が負担する保険料も、結局は自分の事業から出るお金です。比較は本人負担+法人負担の合計で行う必要があります。

令和8年度の協会けんぽ(東京)の保険料率は、健康保険が非介護該当10.08%、介護該当11.70%、厚生年金が18.3%です。マイクロ法人・最低等級(標準報酬58,000円/88,000円)の場合、労使合計の保険料は年約27万円前後(非介護該当で約26.7万円、介護該当で約27.8万円)、本人の天引き分は年約13万円台になります。

ケース年間負担の目安注意点
個人事業主単体(国保+国民年金)高所得・上限付近なら年100万円超もあり得る自治体・年齢・世帯構成で大きく変動
マイクロ法人・最低等級(労使合計)年約27万円前後(本人天引き分は年約13万円台)法人負担分も自分の会社から支出
差額(削減効果)条件次第で年60万円以上になることもある誰にでも起きるわけではない

顧問先で多いのは、所得600万円前後で国保が約90万円、マイクロ法人の社保(労使合計)が約27万円、差額約60万円というケースです。一方、所得300万円程度では国保は約56万円ほどにとどまり、削減効果は限定的です。「作れば得」ではなく、所得水準によって効果が大きく変わる点に注意してください。役員報酬の設定を誤り、国保より高い社会保険料を払い続けてしまうケースもあります。

国民健康保険が賦課限度額(上限)に達している高所得者(40〜64歳)では、差はさらに広がります。

項目年額
国民健康保険(賦課限度額・上限、令和8年度)113万円(医療67万+後期高齢者支援26万+介護17万+子ども・子育て支援3万)
国民年金(本人・令和8年度、月17,920円)約21.5万円
個人事業主の合計約134万円
マイクロ法人・最低等級(労使合計)約28万円
差額(最大ダウン幅)年約100万円以上

ただし、これは国保が上限に達する高所得・40〜64歳という”天井”のケースです。誰にでも起きるわけではないため、まず自分がどのゾーンに当てはまるかを確認することが重要です。

役員報酬は「いくらが正解」ではなく5つの視点で設計する

マイクロ法人の役員報酬について「月4.5万円が正解」といった情報を見かけますが、これは丸暗記すべき数字ではありません。社会保険の最低等級に収めるだけであれば、健康保険は報酬月額63,000円未満(標準報酬58,000円)、厚生年金は報酬月額93,000円未満(標準報酬88,000円)が目安になりますが、実際の設計では次の5つを総合的に見る必要があります。

  • 社会保険の最低等級に収まるか
  • 本人負担分を給与から控除できる水準か(極端に低いと控除できない場合がある)
  • 給与所得控除(令和7年度改正で最低65万円に引き上げ)・住民税・源泉所得税への影響
  • 法人側に報酬を支払う原資があるか
  • 定期同額給与として税務上問題ないか(役員給与は原則、定期同額・事前確定届出・業績連動のいずれかでなければ損金不算入)

役員給与の損金算入要件については国税庁タックスアンサーNo.5211で確認できます。また、無報酬の役員のみの法人は社会保険の適用を受けられません。役員報酬の決め方全般は役員報酬の税金でも解説していますので、個別の状況に応じた試算とあわせてご確認ください。

見落としがちな7つの落とし穴

社会保険料が下がるという効果だけに注目すると、次の7つを見落としがちです。マイクロ法人を作る前に必ず確認してください。

①②事業実態がないと危ない—税務と社会保険は別のリスク

売上を法人に付け替えても、実態として個人が稼いでいるだけなら、所得の帰属を見直される可能性があります(実質所得者課税の原則、所得税法第12条)。また、役員報酬が極端に低く、勤務実態や法人の売上と説明がつかない場合、標準報酬月額について年金事務所から照会・確認を受けることがあります(保険者決定の仕組み)。この2つは別のリスクとして理解する必要があります。事業実態は、(1)法人名義の契約書があるか、(2)法人名義の請求書・入金口座があるか、(3)個人事業と法人で顧客・商品・サービスが分かれているか、(4)法人側で実際に意思決定・営業・納品をしているか、(5)売上規模と役員報酬の説明がつくか、の5点で確認します。

③赤字でもかかる維持コスト

法人は赤字でも住民税の均等割が発生し、目安は年約7万円です(資本金・従業員数や自治体によって異なります)。ほかに設立費用(合同会社約6万円、株式会社約20万円台)、税理士への決算申告費用なども継続的にかかります。削減額が維持コストを十分に上回るかどうかが判断の分かれ目です。

④役員貸付金による融資への悪影響

役員報酬を下げすぎて生活費が不足し、法人口座から資金を引き出すと、決算書上は役員貸付金として計上されます。これは金融機関の融資審査で評価を下げる要因になり、社保が安くなっても融資が通らなくなっては本末転倒です。

⑤将来の厚生年金が減る可能性

厚生年金の将来受給額は標準報酬月額に応じて決まるため、最低等級のままでは将来の老齢厚生年金は少なくなります。浮いた保険料をiDeCoや小規模企業共済で運用・貯蓄する選択肢もあれば、あえて報酬を上げて公的年金を厚くする選択肢もあり、正解は人によって異なります。

⑥⑦手間の継続と2026年の制度動向

記帳・決算申告・社会保険の事務は、法人を維持する限り毎年続きます。また、2025年に成立した年金制度改正では、社会保険加入の賃金要件(いわゆる「106万円の壁」)が撤廃される方向ですが、施行時期は公布から3年以内で、最低賃金の状況を見極めたうえで政令で指定されるとされており、現時点で断定はできません。企業規模要件についても2027年10月から段階的に縮小し、2035年10月に撤廃される方向です。詳しくは日本年金機構の被用者保険の適用拡大に関する公式ページで確認できます。これらは主に短時間労働者の社会保険適用拡大に関する改正であり、社長一人のマイクロ法人を直接禁止するものではありません。ただし、社会保険の適用を広げる方向に制度が動いている以上、形だけの低報酬スキームは今後、説明責任が重くなっていくと考えられます。なお、従業員・個人側から見た年収の壁の全体像は年収の壁がなくなる?で解説しています。

マイクロ法人が向く人・向かない人

向く可能性がある人向かない可能性が高い人
市町村国保の負担が重い高所得者所得が低く国保の負担が軽い人
法人で行う実態のある別事業がある人同じ事業を紙の上だけで分けようとする人
健康保険の被扶養者メリットが出る家族構成の人すでに有利な国保組合に加入している人
法人維持コストを払っても差額が残る人削減額より維持コストが大きい人
将来年金の減少を理解し自分で資産形成できる人公的年金をできるだけ厚くしたい人

健康保険は被扶養者に入れる家族がいれば負担感が変わり、市町村国保は世帯人数によって保険料が増えることがあります。また、すでに業種別の国民健康保険組合に加入していて負担が軽い場合は、マイクロ法人化のメリットは薄くなります。

まとめ

マイクロ法人による社会保険料の削減は、条件が揃えば今でも有効な選択肢です。しかし、社会保険料を下げること自体を目的にすると、税務上の否認リスク・社会保険の照会リスク・維持コスト・融資への悪影響・将来年金の減少といった副作用を見落としがちです。実態のある事業があり、国保の負担が重く、維持コストと将来年金まで理解したうえで判断できる人には強力な選択肢ですが、社会保険料を下げるためだけに形だけの法人を作ることはおすすめできません。個別の試算と判断は、必ず税理士にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. マイクロ法人を作れば誰でも社会保険料が下がりますか?

いいえ。差額は所得水準によって大きく変わります。所得600万円前後では年約60万円の削減効果が見られる一方、所得300万円程度では国民健康保険の負担自体が軽いため、効果は限定的です。

Q2. 役員報酬は「月4.5万円」にすればよいのですか?

単純な暗記では判断できません。社会保険の最低等級・給与所得控除・定期同額給与としての適法性など、5つの視点を踏まえた個別の設計が必要です。

Q3. 2026年以降、マイクロ法人によるスキームは使えなくなりますか?

社会保険の適用拡大に関する制度改正は、主に短時間労働者を対象にしたもので、社長一人のマイクロ法人を直接禁止するものではありません。ただし、形だけの低報酬スキームには今後、より重い説明責任が求められる方向にあります。

この内容はYouTube動画でも解説しています。あわせてご覧ください。
田中将太郎 公認会計士・税理士YouTubeチャンネル

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出典・参考情報

本記事の社会保険料率・国民健康保険の賦課限度額・国民年金保険料は令和8年度時点の情報に基づく概算です。標準報酬月額・保険料率は毎年見直される可能性があるため、実際の金額は協会けんぽ・日本年金機構の最新の公式発表でご確認ください。106万円の壁の撤廃時期・企業規模要件の段階的撤廃は検討・審議段階の内容を含みます。個別の税務・社会保険の判断は税理士・社会保険労務士にご相談ください。

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