【2026年10月撤廃予定】年収の壁はこう変わる|130万円の壁、条件次第で手取り約27万円減る働き損ゾーンと経営者の対策3手

公開 2026.09.01 約23分で読めます 筆者:田中将太郎(公認会計士・税理士)

この記事は、パートタイマーや扶養内の従業員を雇っている経営者の方、そして配偶者を扶養の範囲で自社に迎えている社長向けに書いています。2026年10月(令和8年10月)に「106万円の壁」の賃金要件が撤廃される予定ですが、これは最低賃金の上昇により実務上すでにほぼ形骸化した要件の整理であり、撤廃だけで社会保険の加入対象が一般的に増えるわけではありません。経営者にとって対応が必要になる主要な節目は、企業規模要件の引下げで被保険者36〜50人の企業が新たに対象となる2027年10月(令和9年10月)以降の適用拡大です。従業員の雇用契約・シフト・家族の報酬設計をこのままにしてよいかを判断するための、実額ベースの材料をまとめました。

結論を先に言うと、ポイントは次の3つです。

  • 2026年10月の賃金要件撤廃は形式的な整理であり、撤廃だけで社会保険の加入対象が一般的に増えるわけではありません。適用拡大の主要な節目は36〜50人企業が対象となる2027年10月です。そして「130万円の壁(扶養の崖)」は改正後もそのまま残ります
  • 最も危険なのは、週20時間未満のまま年収130万円を超える働き方。試算では、条件に該当するケース(厚生年金加入者に扶養されている20歳以上40歳未満の配偶者=国民年金第3号被保険者。詳細は本文の表参照)で、129万円に抑えた人より3万円多く稼いだだけで手取りが約27万円減る結果になります
  • 抜け道は「壁の内側に隠れること」ではなく、手取りが逆転する年収155万円前後の分岐点まで、経営者が本人と一緒に働き方を設計し直すことです。ただしこの分岐点は、4分の3基準または企業規模要件・任意適用等を満たして勤務先の社会保険に実際に加入し、通常の労使折半(本人負担50%)で保険料を払う場合の数字です(保険料調整制度を利用できる場合は分岐点が下がります。詳細は本文)

※本記事の税率・保険料率・制度内容は2026年9月1日時点の公表情報にもとづきます。シミュレーションはすべて概算です(前提は各表に記載)。

年収の壁の全体地図(2026年9月時点)

「103万」「106万」「130万」「150万」……壁が多すぎて従業員に即答できない、という経営者の方は少なくありません。しかし、壁は「税金の壁」と「社会保険の壁」の2種類しかありません。性質は正反対です。

  • 税金の壁:超えても、超えた分に少しずつ税金がかかるだけの「なだらかな坂」
  • 社会保険の壁:超えた瞬間に保険料の負担がまとまって発生する「崖」
種類何のラインか2026年時点の状況
103万円本人に所得税がかかるライン事実上消滅。令和7年分から160万円に移動(基礎控除95万円+給与所得控除65万円)。さらに令和8・9年分は基礎控除の上乗せ特例により、給与収入約178万円まで所得税ゼロ(合計所得132万円以下は基礎控除104万円+給与所得控除74万円)
106万円社会保険月額賃金8.8万円以上+厚生年金保険の被保険者数51人以上の企業等で、短時間労働者が社会保険に加入するライン(企業規模は従業員数ではなく厚生年金保険の被保険者数で判定)賃金要件(月8.8万円)は令和8年10月に撤廃予定と日本年金機構が公表(正式な施行日は政令で確定)。ただし最低賃金以上で週20時間働けば月8.8万円以上になるため、実務上はすでにほぼ形骸化した要件の整理で、撤廃だけで加入対象が一般的に増えるわけではありません。週20時間・学生でないこと等の要件は残ります(次章)
130万円社会保険健康保険の扶養(被扶養者)でいられる年収見込みの上限。60歳以上または一定の障害者は180万円未満19歳以上23歳未満(配偶者を除く)は150万円未満(令和7年10月1日以降の認定分から)改正後も残ります。一時的な超過には救済措置あり(後述)
150万円配偶者特別控除が満額(38万円)となる配偶者の給与収入の目安令和7年分は約160万円まで、令和8・9年分は約169万円までに引上げ(給与収入207万円超で消失。世帯主の合計所得900万円以下の場合)。169万円・207万円は給与所得控除74万円が適用される令和8・9年分の給与収入換算のため、令和10年分以後は給与所得控除等の最新の公表情報をご確認ください

税金の壁は「なだらかな坂」になったうえ、ラインも大きく上がったため、実務上ほぼ引退しました。経営者が注視すべきは社会保険の壁だけです。

106万円の壁はいつなくなるのか

短時間労働者の社会保険加入要件のうち、「所定内賃金が月額8.8万円以上」という賃金要件は、日本年金機構が公式に「令和8年10月に撤廃予定」と公表しています。2025年6月に成立した年金制度改正法にもとづくもので、正式な施行日は政令で確定します(法律上は公布から3年以内=遅くとも2028年6月までに施行)。

ここで誤解しやすいのは、「撤廃されるから、2026年10月に社会保険に入る人が一気に増える」わけではないという点です。日本年金機構は、撤廃の理由を「最低賃金以上で週20時間以上働く場合は、所定内賃金が月額8.8万円以上となるため」と説明しています。令和7年度の地域別最低賃金は全国で最も低い県でも時給1,023円であり、週20時間働けば月額賃金はおおむね8.8万円を超えます。つまり賃金要件は最低賃金の上昇によって実務上すでにほぼ形骸化しており、撤廃は制度の整理という性格が強いのです。現在すでに特定適用事業所(被保険者51人以上の企業等)で週20時間以上働いている人の多くは加入済みであり、経営者が対応時期として押さえるべき主要な節目は、2026年10月ではなく、被保険者36〜50人の企業が新たに強制適用の対象となる2027年10月以降です。

あわせて、企業規模要件も段階的に引き下げられる予定です。なお、この企業規模は「従業員数」ではなく、厚生年金保険の被保険者数(短時間労働者を含まない)で判定します。パートが多い会社は、従業員が51人以上いても被保険者数では基準未満、ということが普通に起こります。

時期(予定)社会保険の適用対象となる企業規模
現在被保険者51人以上
2027年10月(令和9年10月)36人以上
2029年10月(令和11年10月)21人以上
2032年10月(令和14年10月)11人以上
2035年10月(令和17年10月)企業規模要件の撤廃(すべての企業が対象)

賃金要件と企業規模要件が消えていくと、社会保険に入るかどうかを分ける中心的な条件は「週の所定労働時間が20時間以上かどうか」に近づいていきます。ただし、後述のとおり「学生でないこと」などの要件・除外は撤廃の対象になっておらず、改正後も残ります。「うちは小さい会社だから関係ない」という前提は、カウントダウンつきで消えていく予定です。

なお、会社側の保険料負担がいくら増えるかは、別記事「社会保険料の会社負担、『106万円の壁』撤廃で増加」で試算しています。本記事は従業員・世帯側の手取りに焦点を当てます。

そもそも誰が社会保険に入るのか:シミュレーション前の適用判定

手取りの試算に入る前に、「誰が社会保険に入るのか」の判定ルートを整理します。「週20時間」と「130万円」だけで判定できるわけではありません。ここを飛ばすと、学生アルバイトや60歳以上のパートに誤った説明をすることになります。

判定項目内容
①4分の3基準週の所定労働時間と月の所定労働日数が、通常の労働者(正社員等)の4分の3以上なら、企業規模を問わず社会保険に加入します。学生であっても加入です。以下の②は、この基準を満たさない短時間労働者だけに適用されます
②短時間労働者の適用拡大4分の3基準に該当しなくても、週20時間以上+月額賃金8.8万円以上(令和8年10月撤廃予定)+学生でないこと+厚生年金保険の被保険者数51人以上の企業等のすべてを満たすと加入します
学生の扱い②では「学生でないこと」が要件のため、昼間学生は原則加入しません(休学中・夜間学部・定時制・通信制課程などは「学生」から除かれ、加入対象になります)。この要件は今回の撤廃の対象外です
短期雇用等の除外雇用期間が2ヶ月以内で継続雇用が見込まれない臨時の雇用などは、適用が除外されます
企業規模の数え方「51人以上」は従業員数ではなく厚生年金保険の被保険者数(短時間労働者を含まない)で判定します

扶養(被扶養者)の収入基準にも例外があります。日本年金機構の被扶養者認定の基準では次のとおりです。

対象者扶養でいられる年間収入の上限
原則(下記以外の配偶者・親族)130万円未満
60歳以上、または一定の障害者180万円未満
19歳以上23歳未満(配偶者を除く)150万円未満(令和7年10月1日以降の認定分から)

また、扶養を外れたときに国民年金保険料の負担が新たに発生するのは、原則として国民年金の第3号被保険者だった人だけです。日本年金機構の制度説明のとおり、第3号被保険者になれるのは厚生年金加入者(第2号被保険者)に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者に限られます。健康保険の被扶養者であっても、子・兄弟姉妹など配偶者以外の親族は第3号被保険者にならず、20歳以上60歳未満であれば原則としてすでに第1号被保険者として国民年金保険料を負担しています。また60歳以上のパートには、この後の試算に出てくる国民年金の負担は生じません。

つまり、この後のシミュレーションと3コース提案が当てはまるのは、「4分の3基準に該当せず、勤務先の社会保険に加入していない、学生でない20歳以上40歳未満で、厚生年金加入者に扶養されている国民年金第3号被保険者の配偶者」です。学生・60歳以上・一定の障害者・配偶者以外の親族(子・兄弟姉妹など。19〜22歳は扶養基準150万円未満)は、崖の位置や負担の中身が異なるため、この地図をそのまま使わず、個別に判定してください。

手取りシミュレーション:130万〜150万円は「働き損の谷間」

週20時間以上働いて社会保険に加入した場合、本人の手取りがどうなるかを試算します。

試算の前提:前章の対象条件(学生でない20歳以上40歳未満・厚生年金加入者に扶養されている国民年金第3号被保険者の配偶者・4分の3基準非該当)を満たす人について、協会けんぽ(東京支部)・令和8年度の保険料率・40歳未満(介護保険料なし)・通常の労使折半(本人負担50%)で計算した概算です。2026年10月以降に新たに任意特定適用事業所となる事業所や、2027年10月以降の適用拡大で新たに対象となる事業所では、後述の保険料調整制度により本人負担が50%より軽くなる場合があるため、この表は既存の特定適用事業所など、同制度を利用しないケースの試算としてお読みください。所得税は令和8・9年分は給与収入約178万円まで実質ゼロのため考慮外、住民税は自治体・年分により少額発生しますが表では省略しています。基準は、壁の内側(週20時間未満・年収129万円)に抑えた人。所得税も社会保険料もかからないため、手取りはほぼ129万円です。

年収状態本人の社会保険料(年・概算)本人の手取り(概算)
129万円壁の内側(週20時間未満)0円約129万円(基準)
106万円社会保険加入約15万円(月約12,700円)約91万円
130万円社会保険加入約19万円(月約15,600円)約111万円
150万円社会保険加入約21.5万円(月約17,900円)約128.5万円

注目すべきは最後の行です。年収150万円まで働いた人の手取りは約128.5万円——129万円で止めた人より、むしろ約5千円少ないという試算になります。つまり、130万〜150万円のゾーンは、21万円分よけいに働いても手取りがほぼ増えない「手取りの平らな谷間」です。

最も危険な「働き損ゾーン」:週20時間未満のまま130万円を超える

谷間よりさらに危険な落とし穴があります。週20時間未満のまま、年収の見込みが130万円を超えてしまうケースです。

この場合、週20時間未満なので勤務先の社会保険には入れません。一方で扶養からは外れるため、国民健康保険と国民年金の保険料を、全額自分で負担することになります。

この表の対象:学生でない20歳以上40歳未満で、厚生年金加入者に扶養されている国民年金第3号被保険者の配偶者の場合です。扶養を外れると第3号被保険者から第1号被保険者に切り替わるため、国民年金保険料が新たに発生します。子・兄弟姉妹など配偶者以外の親族は第3号被保険者にならず、20歳以上60歳未満なら扶養内でもすでに国民年金を負担しているため、この表の国民年金の新規負担(約21.5万円)も約27万円の手取り減も生じません(国民健康保険分等を反映した別の試算が必要です)。また60歳以上または一定の障害者は扶養基準が180万円未満、19〜22歳の配偶者以外の親族は150万円未満のため、崖の位置が異なります。国民年金の強制加入は原則20歳以上60歳未満のため、60歳以上の方にはこの表の国民年金負担は生じません。

年収129万円(扶養内)年収132万円(扶養外・週20時間未満)
国民年金保険料(令和8年度・月17,920円。第3号→第1号被保険者への切替で新規発生)0円(第3号被保険者)約21.5万円
国民健康保険料(概算)0円約9万円前後(自治体により異なる)
手取り(概算)約129万円約102万円

第3号被保険者の配偶者がこの働き方をすると、129万円の人より3万円多く稼いだだけで、手取りは約27万円減る試算です。しかも国民年金は厚生年金と違って会社の折半負担がなく、将来の年金の上乗せ(報酬比例部分)もなく、傷病手当金もありません。同じ「保険料を払う」でも、リターンの薄い払い方になってしまいます。

扶養の判定は「結果の年収」ではなく「見込みの年収」

ここで正確に押さえておきたいのは、被扶養者(130万円)の判定方法です。日本年金機構が令和8年5月に公表した取扱いでは、労働条件通知書など労働契約の内容がわかる書類に記載された賃金から見込まれる年間収入が130万円未満かどうかで判定するとされています。ただしこれは契約年収だけで決まる制度ではありません。契約上の見込み年収が基準未満であることに加え、他の収入が見込まれないこと、生計維持関係の収入要件(同一世帯なら被保険者の年間収入の2分の1未満など)を満たすこと、収入が給与のみである旨の本人の申立てなどの必要書類を提出することを条件に、原則として認定される取扱いです。また、契約期間が1年未満の場合や、シフト制で労働時間が不明確な場合、通勤手当など手当の金額が不明確な場合は、この取扱いによる認定はできません。結果として一時的に超えたかどうかだけで機械的に外れるわけではない一方、時給の上昇などで契約ベースの見込みが130万円を超える働き方になれば、扶養から外れることになります。

一時的な超過には救済がある——ただし「毎年超える」は対象外

人手不足による残業などで一時的に130万円を超えた場合は、事業主の証明を添付することで、原則として連続2回までは引き続き扶養に残れる取扱いが恒久化されています(厚生労働省「年収の壁」への対応)。

ただし、この救済はあくまで「一時的」な収入変動が対象です。毎年恒常的に130万円を超えているようなケースは対象にならないのが原則で、最終的な認定は加入している健康保険の保険者が判断します。「一時的か、毎年か」——この分かれ目を知っているかどうかで、後述のとおり会社の損失額が大きく変わります。

公平に見る:社会保険に入るメリット

ここまで「損」の側を見てきましたが、社会保険への加入は一方的な損ではありません。公平に整理します。

  • 厚生年金保険料は労使折半:本人が払った分と同額を会社が負担します
  • 年金の上乗せ:たとえば年収130万円で1年加入すると、本人の厚生年金保険料は年約12万円。その対価として65歳からの老齢厚生年金が年約7,200円、生涯にわたって増えます。概算で約17年で元が取れ、65歳女性の平均的な受給期間(約24年)なら払った額の約1.4倍が戻る計算です
  • 保障がつく:病気やケガで働けないときの傷病手当金(給与の約3分の2)、産休中の出産手当金、障害・遺族厚生年金の対象になります

「扶養の内側に隠れる」ことを目的化するのではなく、どちら側で働くのが本人と世帯にとって得かを、実額で比較して選ぶことが重要です。

手取りが戻る分岐点は「155万円前後」

社会保険に入っても、年収を伸ばせば手取りは戻ります。上記の前提での試算では、年収がおよそ152万円を超えたあたりで、手取りが129万円(壁の内側)を上回って逆転します。住民税まで含めて確実に上回るラインは155万円前後とみておくとよいでしょう。

ただし重要な前提があります。155万円前後という分岐点は、4分の3基準を満たすか、勤務先が特定適用事業所(厚生年金保険の被保険者数51人以上の企業等)または労使合意による任意特定適用事業所であることなどの要件を満たし、勤務先の健康保険・厚生年金に実際に加入する場合の数字です。2026年時点では、4分の3基準に該当しない短時間労働者は、これらの適用事業所でなければ週20時間以上働いても勤務先の社会保険には入れません。加入対象外の勤務先のまま155万円まで年収を増やすと、扶養を外れて国民健康保険・国民年金を自己負担する前章の最悪ルートに入ってしまいます。年収を増やす前に、①4分の3基準を満たす働き方に変える、②適用事業所である勤務先で働く、のいずれかで加入できるかを必ず確認し、加入できない場合は国保・国民年金の負担を織り込んだ別の損益分岐を判定してください。

もう1つの前提が、保険料の本人負担割合=50%(労使折半)です。2026年10月に始まる保険料調整制度(日本年金機構)では、2026年10月1日以降に新たに任意特定適用事業所となった事業所や、2027年10月以降の適用拡大で短時間労働者が新たに加入対象となる事業所は、事業主の申し出により、標準報酬月額12.6万円以下の短時間労働者の保険料負担割合を、利用1〜2年目は標準報酬月額に応じて25〜48%、3年目は37.5〜49%に軽減できます(利用開始から通算3年間の時限措置)。この制度が使える場合、本人の手取りは本記事の表より多くなり、手取りが逆転する分岐点も155万円前後より低い年収に下がります。本記事の手取り表と分岐点は、既存の特定適用事業所など同制度を利用しないケースの数字である点にご注意ください。

この分岐点を超えれば、手取りは働いた分だけ増えるゾーンに戻り、保険料は将来の年金の上乗せと保障に変わります。「守るなら週20時間未満、攻めるなら155万円前後の向こう側。一番不利なのは130万〜150万円の中間ゾーン」——これが2026年の新しい地図の結論です。

経営者がやるべき3つの対策

対策1:週20時間以上の扶養内従業員を「数える」

まず、週20時間以上働いている扶養内の従業員が社内に何人いるかを把握します。これが今後の社会保険コストと、本人の手取りが変わる対象人数です(昼間学生のアルバイトは「学生でないこと」要件により原則対象外です。ただし4分の3基準に該当すれば学生でも加入します)。

注意すべきは、週20時間は契約上の時間だけで判定されない点です。日本年金機構のQ&Aでは、実際の労働時間が連続する2ヶ月で週20時間以上となり、その状態が続く見込みの場合、3ヶ月目の初日から社会保険の被保険者資格を取得する運用が示されています。契約が週18時間でも、繁忙期の「ちょっと今週も出て」が2ヶ月続けば加入対象になり得ます。シフトをなりゆきに任せている会社ほど、ある日突然、遡及的な対応に追われるリスクがあります。

ありがちな失敗例(試算例):従業員15人ほどの飲食店で、年末が近づくと、パート3人が「130万円を超えそうだから12月はシフトに入れない」と申し出て、繁忙期に一斉に抜ける。急遽アルバイトを2人採用し、採用費・教育コストで15万円ほど余計にかかる——こうした「年末シフト崩壊」は毎年各地で起きています。ここで効いてくるのが前述の分かれ目です。超過が残業などで「たまたま今年だけ」なら、事業主の証明で扶養に残れた可能性が高く、この15万円は不要だったかもしれません。一方、毎年135万円ペースで超えているなら救済の対象にならないのが原則なので、やるべきはシフトの我慢比べではなく契約の設計——見込み年収を扶養の範囲に収まる契約に整えるか、週20時間以上×155万円超まで本人と一緒に踏み込むかの二択です。最低賃金は毎年上がり続けており(令和7年度は東京1,226円、全国加重平均1,121円)、時給が上がるほど同じ壁でも働ける「時間」は毎年短くなります。放置すればこの問題は毎年悪化します。

対策2:本人に「3コース」を実額で提示して面談する

答えを押しつけるのではなく、地図を本人と一緒に見ることが重要です。なお、この3コースは学生でない短時間労働者のうち、厚生年金加入者に扶養されている国民年金第3号被保険者の配偶者向けの整理です。学生・60歳以上・一定の障害者・配偶者以外の親族(19〜22歳は扶養基準150万円未満)は、前述のとおり適用要件や扶養基準(180万円・150万円)と国民年金の負担構造が異なるため、この表をそのまま使わず個別に判定してください。また、Bコースは4分の3基準または企業規模要件・任意適用等を満たし、勤務先の社会保険に実際に加入できることが条件です。加入対象外の勤務先の場合は、加入可能になる働き方への変更か、国保・国民年金ルートでの損益を別途判定してください。さらに、勤務先が2026年10月以降に新たに任意特定適用事業所となった場合や、2027年10月以降の適用拡大で新たに対象となった場合は、保険料調整制度(前章参照)の適用有無を必ず確認してください。制度を利用する場合は本人負担が通常の50%より軽くなり、Bコースの分岐点は155万円前後より低い年収に下がります。

コース働き方向いている人
A:壁の内側週20時間未満・年収約129万円まで扶養と時間の自由を最優先したい人
B:分岐点超え週20時間以上・年収155万円前後以上(勤務先の社会保険に実際に加入できることが条件)手取りも将来の年金も増やしたい人
C:中間ゾーン年収130万〜150万円原則避けたいゾーン(手取りの平らな谷間)

人手不足の今、Bコースで労働時間を延ばしてもらえるなら会社にもプラスです。労働時間の延長により社会保険に加入させた場合のキャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)という支援策もあります(要件・金額は申請前に最新の公表情報をご確認ください)。

対策3:配偶者・家族従業員の設計を見直す

配偶者を扶養パートとして雇っている会社は多いですが、今回の改正で「扶養のまま」の旨味は徐々に薄くなっていきます。選択肢は、従業員として社会保険に加入して働く時間を増やすか、役員として報酬設計で世帯最適化するかの再設計です。

1つだけ注意があります。役員は「週20時間」ではなく、常勤で報酬を受ければ社会保険の加入対象になります。また、勤務実態のない名目だけの役員報酬は税務調査で否認されるリスクがあります。家族の報酬設計は、必ず税理士・社労士と一緒に進めてください。

よくある質問

Q1. 106万円の壁は本当に2026年10月になくなりますか?

賃金要件(月8.8万円)について、日本年金機構が「令和8年10月に撤廃予定」と公表していますが、正式な施行日は政令で確定します(法律上のリミットは2028年6月)。本記事執筆時点(2026年9月1日)では「予定」の段階です。ただし本文のとおり、この要件は最低賃金の上昇で実務上すでにほぼ形骸化しており、撤廃だけで加入対象が一般的に増えるわけではありません。企業規模要件による強制適用の次の拡大は2027年10月(被保険者36人以上)です。確定情報は日本年金機構の公表をご確認ください。

Q2. パートの年収が今年だけ130万円を超えそうです。すぐ扶養から外れますか?

被扶養者の判定は、原則として雇用契約の内容から見込まれる年間収入で行われます(他の収入がないこと・生計維持要件・給与収入のみである旨の申立て等の要件と必要書類があり、契約期間1年未満やシフト制等で労働時間・手当額が不明確な場合はこの取扱いを使えません)。残業増などによる一時的な超過であれば、事業主の証明により原則連続2回まで扶養に残れる取扱いがあります。ただし毎年恒常的に超えている場合は対象外が原則で、最終判断は加入する健康保険の保険者が行います。まずは会社と保険者に確認してください。

Q3. 従業員にはどの働き方を勧めるべきですか?

会社が一方的に決めるのではなく、「週20時間未満で約129万円まで」「週20時間以上で155万円前後超」「130万〜150万円の中間ゾーンは原則避ける」という3つの選択肢を実額で示し、本人のライフプランに合わせて選んでもらうのが実務的です(この整理は学生でない短時間労働者のうち国民年金第3号被保険者の配偶者向けです。学生・60歳以上・配偶者以外の親族等は基準や負担構造が異なります)。155万円前後超のコースは、4分の3基準または企業規模要件・任意適用等を満たして勤務先の社会保険に実際に加入し、通常の労使折半で保険料を払う場合の分岐点である点にも注意してください(保険料調整制度=2026年10月開始・通算3年の時限措置を利用できる場合は本人負担が軽くなり、分岐点は下がります)。社会保険加入には将来の年金増や傷病手当金などのメリットもあるため、損得両面を提示することが大切です。

まとめ:年収の壁・新地図

2026年の結論
103万円 → 160万円税の壁は事実上引退(令和8・9年分は給与収入約178万円まで所得税ゼロ)
106万円賃金要件は令和8年10月に撤廃予定(政令待ち)だが、最低賃金上昇で実務上すでにほぼ形骸化しており、撤廃だけで加入対象は一般的に増えない。適用拡大の主要な節目は36〜50人企業が対象の2027年10月。中心の壁は「週20時間」に収れんへ(学生でないこと等の要件・除外は残る。企業規模は厚生年金保険の被保険者数で判定)
130万円改正後も残る崖。週20時間未満×130万円超が最悪ルート(約27万円減の試算は国民年金第3号被保険者の配偶者が対象。救済は一時的な超過に限り、事業主証明で原則連続2回まで。60歳以上等は180万円、19〜22歳の配偶者以外は150万円と基準が異なる)
130万〜150万円手取りの平らな谷間。155万円前後で手取りが逆転(4分の3基準または企業規模要件・任意適用等を満たして勤務先の社会保険に実際に加入し、通常の労使折半で保険料を払う場合の分岐点。保険料調整制度を利用できる場合は分岐点が下がる)
経営者の3手①週20時間以上の扶養内従業員を数える ②3コースを実額で面談 ③家族従業員の報酬設計を見直す

制度の変更は止められませんが、シフトも、契約も、家族の報酬も、扶養の置き方も、すべて経営者の側で設計できます。壁は嘆くものではなく、設計し直すものです。

動画でも解説しています

年収の壁の全体地図と手取りシミュレーションは、YouTubeでも解説しています。あわせてご覧ください。

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出典(一次情報)

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