個人事業主の開業1年目にやるべき手続き10選|優先順位順に税理士が解説【2026年版】
この記事は、2026年に開業したばかりの個人事業主・フリーランスの方が「何を・いつまでに・どの順番で」手続きすべきかを決めるための記事です。特に青色申告承認申請書は原則「開業から2ヶ月以内」(1月16日以後開業の場合)という期限があり、遅れると初年度の青色申告特別控除(最大65万円)を受けられません。公認会計士・税理士の田中将太郎が、500社以上の開業・創業支援の経験をもとに、優先順位順に10個の手続きを解説します。
著者:公認会計士・税理士 田中将太郎(田中国際会計事務所)
記事更新日:2026年8月25日
制度の基準日:2026年8月時点の法令・公表情報に基づく(税制改正で今後変わる可能性があります)
開業1年目にやるべき手続き10選【優先順位チェックリスト】
| # | やること | 期限・タイミング |
|---|---|---|
| ① | 健康保険・年金の切替(退職して開業した人) | 国民年金第1号への切替(20歳以上60歳未満で第3号に該当しない人)・国民健康保険:14日以内/任意継続:20日以内(いずれも退職日の翌日から)。配偶者の扶養に入る人(第3号)・60歳以上の人は本文①参照 |
| ② | 青色申告承認申請書を出す | 原則3月15日まで。1月16日以後の開業は開業日から2ヶ月以内 |
| ③ | 開業届を出す | 開業した年分の確定申告期限まで(2026年から緩和。ただし②と同時提出を推奨) |
| ④ | 事業用の口座・クレジットカードを分ける | 開業後すぐ |
| ⑤ | 会計ソフトを入れて最初から複式簿記 | 開業後すぐ |
| ⑥ | 開業費のレシート・領収書を集める | 開業前の分も随時 |
| ⑦ | 家事按分の根拠を残す | 初年度から |
| ⑧ | インボイス登録を「するかどうか」判断する | 取引先が固まってきたら |
| ⑨ | 納税資金を別口座にプールする | 売上が立ち始めたら |
| ⑩ | 将来の備えと家族の活用(小規模企業共済・iDeCo・専従者給与) | 共済・iDeCoは所得が出てきたら/青色事業専従者給与の届出は原則3月15日まで(1月16日以後の開業・専従開始はその日から2ヶ月以内) |
ポイントは、①②③に加えて⑩の青色事業専従者給与の届出にも法令上の期限がある一方、④〜⑨は「早いほど楽になる」実務対応だということです。以下、順に見ていきます。
① 健康保険・年金の切替(退職して開業した人)|最短の期限は14日・20日
会社を辞めて開業した人は、実は税務署への届出よりも先に期限が来る手続きがあります。社会保険の切替です。
- 年金:退職後にどの手続きが必要かは、年齢と家族の状況で分かれます(日本年金機構の案内)。
- 20歳以上60歳未満で、厚生年金にも下記の第3号被保険者にも該当しない人:国民年金の第1号被保険者への切替が必要です。退職日の翌日から14日以内に住所地の市区役所・町村役場で手続きします。
- 厚生年金に加入している配偶者の扶養に入る人(原則として年収130万円未満などの要件あり):第3号被保険者となり、自分で保険料を納める必要はありません。手続きは配偶者の勤務先経由で行います。
- 60歳以上の人:国民年金は原則として強制加入ではありません。老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていない場合や、満額に満たない場合は、65歳になるまでの任意加入を検討します。
- 健康保険:「国民健康保険に加入する」「勤めていた会社の健康保険を任意継続する」「家族の健康保険の被扶養者になる」の3択を比較します。
| 選択肢 | 概要 |
|---|---|
| 国民健康保険 | お住まいの市区町村で加入。厚生労働省の案内のとおり、加入の届出は原則14日以内に市町村の国民健康保険の窓口へ行います。保険料は前年の所得をもとに計算されるため、退職直後は会社員時代の所得で保険料が高めになることがあります。 |
| 任意継続(協会けんぽの場合) | 退職日の翌日から20日以内に申請(期限厳守)。協会けんぽの案内のとおり、退職日までに継続して2ヶ月以上の被保険者期間があることが加入要件です。加入期間は2年間。保険料は退職時の標準報酬月額で計算されますが、標準報酬月額が32万円を超えていた場合は32万円で計算されます(協会けんぽの現行の取扱い)。事業主負担がなくなるため全額自己負担です。本人の申出による途中脱退も可能なので、加入後に国保の方が安くなった時点で切り替える選択もできます。 |
| 家族の健康保険の被扶養者 | 配偶者など家族が勤務先の健康保険に加入している場合、その被扶養者になる選択肢もあります。保険料の追加負担はありませんが、年収などの収入要件を満たすかどうかについて、家族が加入する保険者(健康保険組合・協会けんぽ等)による認定が必要です。 |
どれが有利かは、前年の所得・家族構成・お住まいの自治体の保険料率によって変わるため、一律には言えません。市区町村の窓口で国民健康保険料の試算を出してもらい、任意継続の保険料、そして被扶養者の認定を受けられるかどうかと、実額で比較してから選ぶのが実務上の定石です。
また、国民年金第1号被保険者になったら、定額保険料に月額400円の付加保険料を上乗せする「付加年金」も検討に値します。将来の年金額が「200円×付加保険料納付月数」増えるため、受給開始から2年で納めた保険料を回収できる計算になります。ただし、日本年金機構の案内のとおり、保険料の免除(法定免除・全額免除・一部免除)・納付猶予・学生納付特例を受けている人や、国民年金基金の加入員は付加保険料を納付できません(産前産後免除中は納付可能)。
② 青色申告承認申請書|開業から2ヶ月以内(初年度最重要)
開業1年目の税金を左右する最重要書類がこれです。青色申告承認申請書を期限内に出さないと、初年度は自動的に白色申告となり、青色申告特別控除(最大65万円)を受けられません。
提出期限は国税庁の案内(A1-8)のとおりです。
- 原則:青色申告をしようとする年の3月15日まで
- その年の1月16日以後に開業した場合:開業日から2ヶ月以内
年の途中で開業する多くの人にとって、実質的なデッドラインは「開業から2ヶ月」です。なお、2026年1月1日〜15日に開業した人の期限は原則どおり2026年3月15日ですが、2026年の3月15日は日曜日にあたるため、期限は翌日の2026年3月16日(月)までとなります。
なお、家族に給与を払う予定がある人は、⑩で解説する「青色事業専従者給与に関する届出書」も同じ期限(原則その年の3月15日まで・その年1月16日以後の開業等はその日から2ヶ月以内)です。該当する場合は、青色申告承認申請書と同時に提出してしまいましょう。
青色申告を「出した/出し忘れた」の差
| 項目 | 出し忘れ(白色) | 出した(青色) |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 0円 | 10万円/55万円/最大65万円 |
| 赤字(純損失)の繰越し | 原則不可(変動所得の損失や被災事業用資産の損失など一部の損失に限り繰越可) | 翌年以後3年間の繰越控除が可能 |
| 家族への給与(青色事業専従者給与) | 原則不可(定額の事業専従者控除のみ) | 要件を満たせば実額を必要経費にできる |
65万円控除の要件は、複式簿記による記帳などの55万円控除の要件に加えて、「e-Taxによる申告」または「仕訳帳・総勘定元帳の優良な電子帳簿保存」のいずれかを満たすことです(国税庁タックスアンサーNo.2072)。後述の会計ソフト+e-Taxの組み合わせなら、初年度から65万円控除を狙えます。
仮に所得税・住民税をあわせた税率が20%の人なら、65万円控除で税負担は約13万円変わる計算です。さらに青色申告特別控除は事業所得そのものを減らすため、後述のとおり国民健康保険料の軽減につながる場合もあります。
なお、令和8年度税制改正により、令和9年分(2027年分)以後は青色申告特別控除が見直されます。国税庁の案内リーフレットのとおり、複式簿記+e-Tax送信で65万円、さらに請求書データ等との自動連携や訂正削除履歴の記録など一定の要件を満たす優良な電子帳簿を作成・保存している場合には最大75万円の控除を受けられるようになります(一方、簡易簿記の10万円控除は前々年分の収入金額が1,000万円を超えると適用できなくなります)。最初から「会計ソフト+e-Tax+電子帳簿」で始めておくと、この引き上げの恩恵も受けやすくなります。
③ 開業届|2026年から期限が「確定申告期限まで」に緩和
「個人事業の開業・廃業等届出書」、いわゆる開業届です。ここは動画公開後にアップデートがあった部分なので補足します。従来は「開業から1ヶ月以内」とされてきましたが、現在の国税庁タックスアンサーNo.2090では、提出期限は「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで」とされています。2026年に開業した人なら、2026年分の確定申告期限(2027年3月15日)までに出せばよいことになります(確定申告の期間は国税庁タックスアンサーNo.2024のとおり翌年2月16日から3月15日までです)。つまり③の開業届にも、確定申告期限という法定期限自体はある点に注意してください。
ただし実務上は、期限ギリギリまで放置するメリットはほとんどありません。
- 屋号付きの事業用口座の開設や、小規模企業共済の加入手続きなどで開業届の控えを求められることが多い
- ②の青色申告承認申請書と同時に出せば、期限管理が1回で済む
開業届自体に罰則はありませんが、「青色申請とセットで開業後すみやかに提出」が実務上の正解です。
④ 事業用の口座・クレジットカードを分ける
地味ですが効果は絶大です。事業用の銀行口座とクレジットカードをプライベートと分けるだけで、次の2つが変わります。
- 記帳が楽になる:事業のお金の出入りが口座・カード明細に一本化され、会計ソフトの自動連携が機能する
- 経費の根拠が明確になる:公私混同がなくなり、家事按分や経費の説明がしやすくなる
開業1年目の人が最もつまずくのが、確定申告期にプライベートの明細と混ざったレシートの山を仕分けする作業です。最初に分けておけば、その作業自体が発生しません。
⑤ 会計ソフトを入れて、最初から複式簿記
青色申告の55万円・65万円控除には複式簿記による記帳が必要ですが、いまはクラウド会計ソフトが口座・カードの明細を自動で取り込み、ほぼ自動で複式簿記の帳簿を作ってくれます。④で口座を分けておけば、この自動化が最大限機能します。
そして確定申告をe-Taxで行えば、65万円控除の要件も満たせます。「口座分離→会計ソフト→e-Tax」は、開業1年目の経理の黄金ルートです。会計ソフトの選び方はクラウド会計ソフトの使い方と導入メリットでも解説しています。
⑥ 開業費を漏れなく集める|開業「前」の支出も経費にできる
開業する前に使ったお金も、「開業費」として必要経費にできます。これを知らずに捨てている人が非常に多い項目です。
- 対象になる例:開業準備のために特別に支出した費用。国税庁の決算の手引きが挙げる代表例は広告宣伝費、接待費、開業までの給料賃金などで、ほかに名刺の作成費、開業セミナー参加費、市場調査の旅費などが典型です
- 対象にならない例:地代家賃や仕入代金のような経常的な費用、10万円以上の固定資産(これらは通常の経費・減価償却で処理)
- 判定が必要な例:店舗の内装工事費や、高い機能を持つ高額なウェブサイトの制作費などは、固定資産の取得価額・修繕費・開業費のいずれに当たるかの判定が必要で、開業費として任意償却できるとは限りません。金額が大きい場合は処理を決める前に専門家に確認してください
開業費の強みは、繰延資産として「任意償却」できることです。国税庁の質疑応答事例では、任意償却には下限がなく、さらに支出から60ヶ月を経過した後でも、未償却残高をいつでも必要経費に算入できると示されています。つまり、赤字の初年度は償却せず、黒字が出た年にまとめて経費化するという使い方ができます。開業前のレシート・領収書は、今すぐ1つのファイルに集めておきましょう。
⑦ 家事按分の根拠を最初から残す
自宅で仕事をする人は、家賃・電気代・通信費・車両費などを「事業で使った割合」に応じて必要経費にできます(家事按分)。国税庁タックスアンサーNo.2210のとおり、家事関連費を必要経費にできるのは、取引の記録などに基づいて、業務の遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる部分に限られます。
実務上のコツは次の3つです。
- 面積比・使用時間・使用日数など、説明できる基準で按分割合を決める
- 賃貸借契約書・間取り図・業務時間の記録など、根拠資料を保管する
- 自宅家賃の100%経費化のような、実態と乖離した処理はしない
後から遡って根拠を作るのは大変ですが、初年度から記録していれば手間はわずかです。家事按分で事業所得が下がれば、所得税・住民税だけでなく国民健康保険料の軽減につながる場合もあります。
⑧ インボイス登録を「するかどうか」判断する
開業1年目の大きな分岐点です。全員が登録すべきものではなく、判断軸は「取引先が誰か」です。
| タイプ | 取引先 | 考え方の目安 |
|---|---|---|
| BtoB中心 | 企業・事業者 | 取引先からインボイス(適格請求書)を求められやすい→登録+2割特例の適用を検討 |
| BtoC中心 | 一般消費者 | インボイスを求められない場合が多い→登録せず免税事業者のままという選択肢も |
免税事業者からインボイス発行事業者になった小規模事業者には、納税額を売上税額の2割に抑えられる「2割特例」があります。適用対象は令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間で、個人事業主の場合は令和8年分(2026年分)の申告までが対象です。対象となるのはインボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった方で、国税庁の案内では課税事業者選択届出書の提出により課税事業者となった免税事業者も含むとされています。ただし登録した人が誰でも使えるわけではなく、基準期間(個人は前々年)の課税売上高が1,000万円を超える課税期間、調整対象固定資産や高額特定資産の仕入れ等により事業者免税点制度の適用が制限される課税期間、課税期間を1か月・3か月に短縮する特例の適用を受ける課税期間などは適用できません(適用除外の詳細は国税庁インボイスQ&A問115)。なお、課税事業者選択届出書の提出者について適用できないのは令和5年10月1日より前から同届出書により引き続き課税事業者となっていた、同日を含む課税期間(令和5年9月30日以前の期間を含む申告)に限られ、令和5年10月1日以後に開始する課税期間については、同届出書を提出していても、インボイス登録や基準期間の課税売上高1,000万円以下などの要件を満たせば2割特例を適用できます(国税庁インボイスQ&A問116)。
さらに令和8年度税制改正の大綱では、2割特例の終了後も、個人事業者については納税額を売上税額の3割とすることができる措置を2年間(令和9年分・令和10年分)講じるとされています。国税庁のインボイス制度・令和8年度税制改正の特集ページのとおり、この措置にも個人事業者であること・基準期間の課税売上高が1,000万円以下であること・インボイス発行事業者の登録を受けていることといった要件があります。2割特例・3割特例を適用できる場合には「登録したら消費税の負担が一気に重くなる」わけではないものの、負担は段階的に増えていき、特例を使えるかどうかで納税額は大きく変わります。登録を決める前に、基準期間の課税売上高と、上記の適用除外(Q&A問115)に当たらないかを必ず確認した上で、取引先構成と売上規模を見て判断してください。消費税の免税・課税の分岐は法人成り後にやるべき手続き10選で扱う法人化の論点とも関わります。
⑨ 納税資金を別口座にプールする
開業1年目で最も怖いのは、税金の支払いに現金が足りなくなる資金ショートです。個人事業主は、所得税・住民税・国民健康保険料・(課税事業者なら)消費税を、稼いだ後からまとめて払います。特に住民税と国保は前年所得ベースで計算されるため、1年目は軽くても2年目にまとめて重くなる構造です。
対策の第一歩は、売上入金のたびに手取り(売上から経費を差し引いた利益の概算)の2〜3割を納税用の別口座に移すことです。ただし、この2〜3割はあくまで開業初期の目安にすぎず、必要額を保証するものではありません。必要な積立額は、課税所得の水準や所得税率、住民税・国民健康保険料・個人事業税、予定納税の有無、そして消費税の課税事業者かどうかで大きく変わり、所得が大きい人や課税事業者では3割を超えることもあります。事業が立ち上がってきたら、売上ではなく予想利益と消費税の課税区分に基づいて年間の税額を試算し、積立率を調整してください。また、前年分の所得税額が一定以上になると、翌年は予定納税として先払いを求められます。負担が重い場合の対応は予定納税の減額申請の記事で解説しています。
⑩ 将来の備えと家族の活用|「国保に効く節税」から始める
所得が出てきたら、将来の備えと家族の活用を仕込みます。ただし、このうち青色事業専従者給与だけは届出期限があるため、家族に給与を払う予定がある人は開業当初から動く必要があります。
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 小規模企業共済 | 個人事業主の「退職金」制度。掛金は月額1,000円〜70,000円(500円単位)で自由に設定でき、全額が小規模企業共済等掛金控除として所得控除になります。 |
| iDeCo(個人型確定拠出年金) | 老後資金づくり。自営業者等(第1号被保険者)の拠出限度額は月額6.8万円(国民年金基金または付加保険料との合算枠)で、掛金は全額所得控除。※拠出限度額は年金制度改正による見直しが予定されているため、加入時に公式サイトで最新額を確認してください。 |
| 青色事業専従者給与 | 生計を一にする配偶者・親族(その年12月31日で15歳以上)が、原則としてその年を通じて6ヶ月を超える期間(年の途中の開業など一定の場合は、事業に従事できる期間の2分の1を超える期間)もっぱら事業に従事する場合、「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出した上で、労務の対価として相当な金額を必要経費にできます(国税庁No.2075)。届出書の提出期限は原則その年の3月15日まで。その年1月16日以後に開業した場合や新たに専従者がいることとなった場合は、その日から2ヶ月以内です(国税庁A1-10)。開業当初から家族が事業に従事する場合は、②の青色申告承認申請書と同時に提出しておきましょう。 |
ただし、国税庁タックスアンサーNo.2075のとおり、青色事業専従者として給与の支払を受ける人は、同一生計配偶者や扶養親族にはなれません。つまり事業主は、その配偶者・親族について配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除を適用できなくなります。給与を必要経費にする効果と、失われる所得控除・給与を受け取る側の税負担(所得税・住民税)を含めて、世帯全体で有利かどうかを必ず比較してください。
注意:同じ「節税」でも国民健康保険料への効き方が違う
ここは開業1年目の人がほぼ知らないポイントです。国民健康保険料の所得割は、多くの自治体で「総所得金額等から基礎控除のみを差し引いた金額」(いわゆる旧ただし書き所得)をもとに計算されます。そのため、
- 事業所得そのものを下げるもの(必要経費・家事按分・青色申告特別控除)→ 所得税・住民税に加えて国保の所得割の算定基礎も下げ得る
- 所得控除にとどまるもの(小規模企業共済・iDeCoの掛金)→ 所得税・住民税は下がるが、国保は原則下がらない
という違いが生まれます(保険料の計算方法の細部は自治体により異なるため、お住まいの市区町村でご確認ください)。
ただし、青色事業専従者給与は例外的に注意が必要です。事業主本人の事業所得(国保の所得割の算定基礎)は下がりますが、同じ国保世帯の専従者が受け取る給与はその人の給与所得として保険料の算定基礎に含まれます。また名古屋市の国民健康保険の案内にあるように、均等割の軽減判定では専従者給与(控除)を事業主の所得に足し戻して判定する取り扱いがあり、家族の扶養認定に影響することもあります。受給者側の所得・世帯構成・均等割軽減・保険料の上限額まで含めた世帯全体での試算が必要で、専従者給与を払えば世帯の保険料が必ず下がるとは限りません。
開業1年目は、まず②〜⑦の「事業所得を適正に下げる土台」を固め、その上で余力に応じて共済・iDeCoを積む順番が合理的です。小規模企業共済の設計・出口戦略は小規模企業共済で損する人の共通点3つで詳しく解説しています。
よくある質問
Q1. 開業から2ヶ月を過ぎてしまいました。青色申告はもう無理ですか?
まず期限を確認してください。「開業から2ヶ月以内」が期限になるのは1月16日以後に開業した人で、1月1日〜15日に開業した人の期限はその年の3月15日です(2026年の3月15日は日曜日のため、2026年1月1日〜15日に開業した人の期限は2026年3月16日(月)までです)。それぞれの期限を過ぎてしまった場合、初年度分は原則として白色申告になりますが、翌年3月15日までに青色申告承認申請書を出せば、翌年分からは青色申告ができます。気づいた時点ですぐ提出し、記帳体制(④⑤)は今年から整えておきましょう。初年度の赤字を繰り越せない(災害等による一定の損失を除く)等の不利はありますが、2年目以降のリカバリーは十分可能です。
Q2. 開業届をまだ出していません。ペナルティはありますか?
開業届の不提出に罰則はなく、提出期限も2026年からは「開業した年分の確定申告期限まで」に緩和されています。ただし、屋号付き口座の開設や小規模企業共済の加入で控えが必要になる場面が多いため、青色申告承認申請書とセットで早めに提出するのが実務的です。
Q3. 10個全部を一度にやる必要がありますか?
いいえ。期限の短いものから最優先で進めます。最短は①の社会保険の切替(国民年金第1号への切替・国民健康保険の加入は14日、任意継続は20日。配偶者の扶養に入る人は第3号の手続きを配偶者の勤務先経由で行い、60歳以上の人は原則として年金の加入手続き不要)、次が②の青色申告承認申請書と、家族に給与を払う場合の⑩の青色事業専従者給与の届出(いずれも原則3月15日まで、1月16日以後の開業・専従開始はその日から2ヶ月以内)です。③の開業届にも確定申告期限までという法定期限があります。これらを片付けて④⑤の経理の土台を月内に整えれば、残りは事業の立ち上がりに合わせて順に進めれば間に合います。
まとめ|最初の2ヶ月で「期限のある手続き」を必ず終わらせる
開業1年目は、稼ぐことと同じくらい最初の事務手続きが重要です。特に、健康保険の任意継続(退職日の翌日から20日以内)は期限を過ぎると選択肢そのものがなくなり、青色申告承認申請書と青色事業専従者給与の届出(いずれも原則3月15日まで、1月16日以後の開業・専従開始はその日から2ヶ月以内)は、遅れると初年度の税務上の特典を受けられません。国民年金第1号への切替が必要な人(20歳以上60歳未満で厚生年金にも第3号にも該当しない人)と国民健康保険に加入する人の手続き(いずれも原則14日以内)も速やかに済ませましょう。配偶者の扶養に入る人は第3号の手続きを配偶者の勤務先経由で行い、60歳以上の人は任意加入の要否を確認すれば足ります。期限のある手続きを終えたら、口座分離→会計ソフト→開業費の収集と、経理の土台を固めていきましょう。
この記事の内容は、YouTubeチャンネル「たなSHOW」の動画でも解説しています。動画で学びたい方はYouTubeチャンネル(@shotaro-tanaka)をご覧ください。
開業1年目の手続き・節税・記帳体制づくりを専門家に任せたい方へ
田中国際会計事務所では、開業初年度の届出から青色申告・インボイス判断・記帳体制の構築まで、公認会計士・税理士がワンストップで支援しています。「自分のケースでは何が最適か」を確認したい方は、お気軽にご相談ください。
出典(一次情報)
- 国税庁 タックスアンサーNo.2090「新たに事業を始めたときの届出など」(開業届の提出期限)
- 国税庁 A1-8「所得税の青色申告承認申請手続」(青色申告承認申請書の提出期限)
- 国税庁 タックスアンサーNo.2072「青色申告特別控除」(10万・55万・65万円控除の要件)
- 国税庁 タックスアンサーNo.2075「青色事業専従者給与と事業専従者控除」
- 国税庁 A1-10「青色事業専従者給与に関する届出手続」(届出書の提出期限=原則3月15日・1月16日以後の開業等は2ヶ月以内)
- 国税庁 タックスアンサーNo.2024「確定申告を忘れたとき」(確定申告の期間=翌年2月16日から3月15日まで)
- 国税庁 質疑応答事例「償却期間経過後における開業費の任意償却」
- 国税庁 タックスアンサーNo.2210「やさしい必要経費の知識」(家事関連費)
- 国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」(適用要件・適用除外)
- 国税庁 インボイスQ&A問115「2割特例の適用ができない課税期間①」(適用除外の列挙)
- 国税庁 インボイスQ&A問116「2割特例の適用ができない課税期間②」(課税事業者選択届出書提出者の取扱い)
- 国税庁 インボイス制度「令和8年度税制改正」特集ページ(2割特例終了後の個人事業者向け措置の適用要件)
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日閣議決定)(青色申告特別控除の見直し)
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」(2割特例終了後の個人事業者向け経過措置)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「任意継続」(20日以内・2年間・標準報酬月額の上限)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「任意継続の加入について」(加入要件=継続2ヶ月以上の被保険者期間・退職後の健康保険の選択肢)
- 厚生労働省「国民健康保険の加入・脱退の手続き」(届出は原則14日以内)
- 日本年金機構「国民年金に加入するための手続き」(第1号への切替は退職日の翌日から14日以内・第3号は配偶者の勤務先経由・60歳以上の任意加入)
- 日本年金機構「付加年金」(付加保険料 月額400円・200円×納付月数)
- 日本年金機構「付加保険料の納付」(免除・納付猶予・学生納付特例中の人や国民年金基金加入員は納付不可)
- 中小機構「小規模企業共済の掛金」(月額1,000円〜70,000円・全額所得控除)
- iDeCo公式サイト「iDeCoをはじめよう」(第1号被保険者の拠出限度額 月額6.8万円)
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断については税理士等の専門家にご相談ください。制度・期限は2026年8月時点の公表情報に基づいており、税制改正等により変わる可能性があります。