経営者が知っておくべき法人の税金
会社を設立した経営者は、まず5つの税金について知っておく必要があります。会社設立後にすぐに税務署への手続きも必要になるため、これから経営を始めるという起業家も一読してみてください。
こんにちは。田中将太郎公認会計士事務所です。今回は、会社を設立した経営者が知っておくべき「5つの税金」と「節税対策の基礎」について解説します。
所要時間: 5分
法人の税金と節税対策の基礎の2ステップで解説します。
- 5つの税金について知る
法人がどのような税金をいくら支払う必要があるかを説明します。
- 節税対策のために必要なことを知る
会社設立前後でやっておくべき節税対策の基礎を説明します。
知っておくべき5つの税金
経営者が知っておくべき法人の税金は、主に5つです。他にも事業にかかる細かな税金がありますが、次の5つの税金はどの法人にも共通するとても大切な税金です。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 地方法人税
- 消費税
※本記事の税制、税率は、2020年7月時点のものです。
1.法人税
法人が国に支払うメインの税金です。法人が稼いだ利益に対して課税され、税率の5つの中で最も高いです。法人税は他の税金の計算の基礎となるため、法人税が大きくなればなるほど、法人住民税や地方法人税の納税額も大きくなります。節税対策を行う上でも、この法人税をどれだけ抑えられるかをメインに考える必要があります。
法人税額=所得金額(※1)×法人税率
(※1)所得金額とは、税務上の益金から損金を差し引いた額(税務上の利益)
法人税率は、会社の資本金の額が「1億円以上」か「1億円未満」かによって異なります。
資本金が1億円以上の場合
資本金1億円以上の場合は、法人税率は23.2%です。
所得金額(利益)が1,000万円の場合は、
法人税額は、1,000万円×23.2%=232万円
と計算します。
資本金が1億円未満の場合
資本金1億円未満の場合は「中小法人」に分類されるため、所得金額が800万円以下の部分に対する法人税率が優遇されます。
所得金額 | 税率 |
---|---|
年間800万円以下にかかる部分 | 15% |
年間800万円超にかかる部分 | 23.2% |
所得金額(利益)が1,000万円の場合は、
800万円×15%+200万円×23.2%=166.4万円
と計算できます。計算が面倒ですが、優遇されるのはうれしいですよね。
2.法人住民税
法人住民税は、法人が国ではなく地方自治体に支払う税金です。法人税よりも少し複雑なので注意してください。
まず、法人住民税は、法人税割と均等割の2種類があり、2つの合計として計算されます。
法人住民税=法人税割+均等割
また、法人住民税は、都道府県と市町村の2つの自治体にそれぞれ支払わなければいけません。税率が違うので、計算も別々に行う必要があります。
法人住民税の「法人割」とは?
法人割は、法人税の額に住民税率を乗じて計算します。つまり、住民税の法人割の大きさは、法人税額に左右されるのです。
- 法人住民税の法人割= 法人税 × 都道府県民税率/市区町村税率
市区町村税率と道府県民税率の大きさは、法人の資本金と法人税の額によって異なります。すなわち、資本金が1億円以下、かつ、法人税額が1,000万円以下の場合は、低い税率が適用されます。
自治体によっては、上乗せ等があり税率が異なる可能性があるため、各自治体のホームページを確認してください。
【都道府県民税と市町村税の税率】
資本金・法人税額の要件 | 都道府県 | 市町村 |
---|---|---|
資本金1億円以下、かつ、法人税1,000万円以下 | 1.0% | 8.2% |
上記以外 | 1.8% | 6.0% |
法人住民税の「均等割」とは?
法人住民税の均等割は、法人税額の大きさに関係なく、各法人に均等に割りあてられます。そのため、所得金額(利益)がゼロの場合でも、法人住民税の均等割を支払う必要があります。
しかし、会社の規模によって法人住民税の均等割の額に傾斜がつけられています。つまり、法人の「資本金等の額」や「事業所の従業員数」によって均等割の額が決まります。具体的な金額については、念のため各自治体のホームページで確認してください。
【都道府県民税の均等割】
種類 | 金額 |
---|---|
資本金等の額:1,000万円以下 | 2万円 |
資本金等の額:1億円以下 | 5万円 |
資本金等の額:10億円以下 | 13万円 |
資本金等の額:50億円以下 | 54万円 |
資本金等の額:50億円超 | 80万円 |
【市町村税の均等割】
種類 | 従業員 50人以下 | 従業員 50人超 |
---|---|---|
資本金等の額:1,000万円以下 | 5万円 | 12万円 |
資本金等の額:1億円以下 | 13万円 | 15万円 |
資本金等の額:10億円以下 | 16万円 | 40万円 |
資本金等の額:50億円以下 | 41万円 | 175万円 |
資本金等の額:50億円超 | 41万円 | 300万円 |
3.法人事業税
法人事業税は、都道府県によって課される税金です。法人は、公共施設(道路、港湾など)や公共サービスを利用するため、その提供、維持にかかる費用を法人に負担させることを目的としています。
なお、都道府県に支払う法人事業税に加えて、特別法人事業税として国税も課されます。特別法人事業税は、法人事業税に一定の税率を乗じて計算されます。
法人事業税は、法人の資本金の額が「1億円以下」か「1億円超」なのかによって計算方法が大きく異なります。
資本金の額が「1億円以下」の場合の法人事業税
資本金の額が1億円以下の法人の法人事業税は、所得金額(利益)に乗じて計算されます。法人税と計算方法が似ていますね。
法人事業税 = 所得金額 × 法人事業税率(3.5%~7.0%)
特別法人事業税 = 法人事業税×37%
【法人事業税率】
所得区分 | 税率 |
---|---|
400万円以下の部分 | 3.5% |
400万円超800万円以下の部分 | 5.3% |
800万円超の部分 | 7.0% |
(例外)資本金の額が1,000万円以上、かつ、3以上の都道府県に事業所がある場合:所得全額に一律 | 7.0% |
(※)税率は必ず各自治体のホームページを確認してください。
資本金の額が「1億円超」の場合の法人事業税
資本金の額が1億円超の場合は、所得金額に加えて、資本金の額や支払った給与額などを基準にした税額の計算を行う「外形標準課税」が適用されます。
外形標準課税は、簡単に説明すると「所得割」「付加価値割」「資本割」の3つに分けて法人事業税を計算する方法です。
このような面倒な計算を要求している理由は、都道府県が、法人の利益にかかわらず、法人の事業の規模に対して課税するためです。
事業税の性質は、「法人が利用する公共施設や公共サービスに対する課税」です。都道府県としては、法人が公共施設や公共サービスを使った分だけ課税したいと考えました。そこで、法人が支払う給与などに基づく「付加価値割」や資本金の額に課税する「資本割」を導入することで、法人の事業規模に課税をしようとしたのです。
4.地方法人税
地方法人税は、法人税と同様に国に支払う税金です。地方自治体の財政の不均衡を緩和することを目的としています。徴収した税額は、地方交付税として国から地方自治体へと交付されます。
地方法人税は、法人税額に対して一律の税率10.3%を乗じて計算します。
(地方法人税率は、改正により、令和1年10月以降は、4.4%から10.3%に引き上げられています。)
地方法人税額=法人税額×地方法人税率(10.3%)
5.消費税
消費税は、物やサービスの消費に対して課される税金です。私たちも個人として物の購入やサービスを受ける場合に支払っており、日常生活の中で馴染みのある税金だと思います。
しかし、法人の場合は、その計算がとても複雑になります。
法人の場合は、自社が消費した商品やサービスに対して消費税を支払うだけでなく、自社が提供した商品・サービスに対する消費税を消費者から預かる必要があるからです。
そのため、法人が支払う消費税は、
「預かった消費税」-「自社が支払った消費税」
の差額になります。
消費税率は、令和1年10月に改正されているので、消費税(国税分)8%と地方消費税2%の合計10%です。
節税対策の基礎
多くの経営者にとって、余計な税金は払いたくないというのが本音だと思います。そこで、節税を行う上で、最低限やっておくべき基礎を説明します。
資本金を適切な額に設定する
資本金額の設定は非常に重要です。資本金1,000万円未満や資本金1億円以下などのそれぞれの段階で、消費税の免税や中小法人の特例などを受けることができます。
会社設立段階でしっかりと資本金の額を設定することはもちろんですが、資本増強する場合でも資本金を増やすのか、資本準備金を増やすかでもかかってくる税金が違うので慎重に検討してください。
参考:関連記事「プロが教える「会社設立」について知っておくべきこと」
青色申告を行う
青色申告を行うことで、「欠損金の繰越控除」と「特別償却・特別控除」の2大節税メリットを得られます。
欠損金の繰越控除
欠損金とは、いわゆる赤字のことです。この制度では、赤字が生じた場合、青色申告事業者は、赤字の額を10年間繰り越すことができます。
その結果、翌年以降に利益が出た場合に、繰り越された赤字の分だけ税務上の所得金額(利益)を減額し、節税を行うことができます。
特別償却と特別控除
青色申告事業者に限って、特別償却や特別控除を行うことができます。特別償却や特別控除と聞いてもピンとこない人がほとんどかと思います。
簡単にいうと、通常の固定資産の減価償却を前倒しで行うことができる制度です。たとえば、本来は5年かけて減価償却を行う必要があるが、実質3年で償却してしまうというような制度です。
これにより、利益が上がっている時期に、税金を支払う代わりに、どんどん投資を行うことができます。実質的に大きな節税効果を得ることができます。
特別償却や特別控除は、制度によって適用条件が異なるので、制度要件をしっかりと確認してください。
参考:国税庁「中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」
適切な会計処理を行う
法人や経営者の節税を行うためには、適切な会計処理が必須です。
たとえば、交際費、役員報酬は、注意が必要です。
交際費
中小法人の場合は、交際費を損金算入することができますが、本来は交際費ではないような支出まで交際費として会計処理している場合があります。しかし、中小法人の交際費の損金算入限度額は800万円なので、それを超えた場合の一部は、損金に算入できません。
役員報酬
役員報酬は、毎月同額に設定しなければ損金算入が認められませんし、役員賞与は原則として損金不算入です。役員賞与を損金算入に算入するためには、事前に金額を確定して税務署に届出が必要です。
その他
上記以外にも、固定資産の取得や減価償却費の計上、優遇税制の活用など、会計処理を気を付けることで、節税につながることが数多くあります。
税制は、改正や期限付きの優遇制度などもあり、すべてを一人で把握するには限界があります。実務では、公認会計士や税理士のような専門家に相談することをオススメします。