法人成り後にやるべき手続き10選|届出の期限を税理士が解説

個人事業から法人成りをした直後は、登記が完了した安堵もつかの間、税務署・都道府県・市町村・年金事務所へ次々と届出を出さなければなりません。提出先も期限もバラバラなうえ、1枚出し忘れただけで、初年度の赤字を将来の黒字と相殺できなくなるなど、金銭的な影響が生じる手続きも含まれています。本記事では、法人成り直後に必ず押さえておきたい届出・手続きを、提出先と期限がひと目でわかる一覧表とあわせて、これまで500社を超える法人成り・会社設立を支援してきた公認会計士・税理士が解説します。
法人成り後に手続きが多い理由|個人と法人は「別人」
法人成りは、会社を登記すれば完了するわけではありません。法律上、個人事業主と設立した法人はまったくの別人格として扱われるため、個人の時代に使っていた資産や契約、税務署への届出も、法人としてあらためて手続きをやり直す必要があります。「会社は作ったのに、必要な届出はまだ何も出していない」という状態は珍しくなく、期限を過ぎてから気づくケースも実務では頻繁に見られます。まだ会社を設立していない方は、先に会社設立の基礎知識もあわせてご確認ください。
【一覧表】法人成り後の手続き・提出先・期限まとめ
| 手続き | 提出先 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 個人事業の廃業届出書 | 税務署 | 廃業の事実があった日から1ヶ月以内 |
| 法人設立届出書(国税) | 税務署 | 設立の日以後2ヶ月以内 |
| 法人設立届出書(地方税) | 都道府県・市町村 | 自治体により異なる(例: 東京都は事業開始の日から15日以内) |
| 青色申告承認申請書 | 税務署 | 設立から3ヶ月経過する日と最初の事業年度終了日の、いずれか早い日の前日まで |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 | 開設の事実があった日から1ヶ月以内 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 税務署 | 期限の定めなし(提出した月の翌月徴収分から適用) |
| インボイス発行事業者の登録申請書(法人) | 税務署 | 個人の登録は引き継げないため速やかに |
| 健康保険・厚生年金の新規適用届/資格取得届 | 年金事務所 | 事実発生から5日以内 |
最優先の税務署への届出|法人設立届出書と青色申告承認申請書
法人設立届出書は「2ヶ月以内」だが提出先は1ヶ所ではない
会社を登記しただけでは、税務署は法人の存在を把握できません。定款の写しなどを添えて、設立の日以後2ヶ月以内に法人設立届出書を税務署へ提出します。さらに、法人住民税・事業税の関係で都道府県・市町村への提出も必要です。地方税の期限は自治体ごとに異なり、例えば東京都は事業を開始した日から15日以内と、国より締切が早く設定されています。
青色申告承認申請書を出し忘れると、赤字が「消える」
法人にも青色申告制度がありますが、個人事業主時代に青色申告をしていたとしても自動的には引き継がれず、法人としてあらためて申請が必要です。期限は、設立から3ヶ月を経過する日と最初の事業年度終了日のいずれか早い日の前日までで、実務上は「設立から3ヶ月以内」を目安に、設立届と同時に提出するのが安全です。ただし、決算月の直前に設立した会社は、最初の決算日のほうが先に到来するため、期限がさらに短くなる点に注意が必要です。青色申告の承認を受けると、赤字を最長10年間繰り越して将来の黒字と相殺できますが、白色のままだと、設立初年度に生じた赤字は原則として繰り越せず消えてしまいます。設立初年度に大きな先行投資で赤字が出た場合、この1枚の出し忘れが、後年の税負担に大きく跳ね返ってくることになります。
給与支払事務所等の開設届出書と源泉所得税の納期の特例
役員や従業員に給与を支払う場合は、開設の事実があった日から1ヶ月以内に給与支払事務所等の開設届出書も提出します。あわせて検討したいのが源泉所得税の納期の特例です。給与から天引きした源泉所得税は原則として毎月納付ですが、給与の支給人員が常時10人未満の場合、この申請書を提出すれば納付を年2回(7月10日・翌年1月20日)にまとめられます。適用は提出した月の翌月に徴収する分からとなるため、提出月分はまだ毎月納付が必要です。設立後、できるだけ早く提出するのが得策です。なお、この特例の対象は給与・退職金と税理士・弁護士など一定の士業への報酬に限られ、外注のデザイナーやライターへの報酬から源泉徴収した所得税は対象外で、引き続き毎月納付が必要になる点にも注意してください。
社会保険の加入手続き|社長1人でも強制加入
法人の事業所は、社長1人だけの会社であっても、健康保険・厚生年金への加入が法律上義務付けられています。個人事業では業種・人数によって任意加入だったものが、法人になった瞬間に選択の余地がなくなる点は、見落とされがちなポイントです。手続きは、事業所を適用事業所にする新規適用届と、社長自身が被保険者になる資格取得届の2枚がセットで、いずれも事実が発生してから5日以内に年金事務所へ提出します。未加入のまま放置すると、後から加入を求められた際に、過去にさかのぼって保険料をまとめて徴収されるリスクがあるため、設立後はできるだけ早く対応することをおすすめします。
個人事業の廃業届と資産・契約の引き継ぎ
法人成りは、会社を作って終わりではなく、個人事業を閉じる手続きとセットです。個人事業の廃業届出書は、廃業の事実があった日から1ヶ月以内に税務署へ提出します。また、廃業した年についても、1月から廃業日までの個人事業分の所得については、翌年に確定申告が必要になる点を見落とさないようにしてください。個人で使っていた車両や什器備品、事務所の賃貸契約なども自動的に法人のものにはならず、時価での売買・賃貸借契約や、契約名義の変更手続きが必要です。個人と法人の間の資産の売買を時価からかけ離れた金額で行うと、その差額が税務上の問題になり得るため、契約書を整えたうえで時価により手続きすることが重要です。
インボイス登録は個人から引き継げない
個人事業主時代にインボイス発行事業者の登録をしていた方も、その登録番号を法人へそのまま引き継ぐことはできません。法人として新たに登録申請書を提出し、個人側では事業廃止届出書を提出することで、廃止日の翌日に個人の登録は失効します。法人の登録を忘れたまま請求書を発行し続けると、取引先が仕入税額控除を受けられなくなり、取引条件の見直しを求められる可能性もあるため、設立後は速やかに手続きすることが大切です。なお、設立後しばらく経ってから気づいた場合でも、最初の事業年度の末日までに手続きをすれば、設立日にさかのぼって登録を受けられる特例があります。また、資本金1,000万円未満で設立した法人は、原則として設立1期目の消費税が免除されますが、インボイス登録をした時点で課税事業者になるため、免税のメリットを活かすか登録を優先するかは、取引先の状況を踏まえて判断する必要があります。
まとめ|優先順位をつけて1つずつ片付ける
法人成り直後は、税務署・都道府県・市町村・年金事務所へと、提出先も期限も異なる手続きが一斉に発生します。中でも、青色申告承認申請書と社会保険の新規適用届は期限が特に短く、後から取り返しがつかない性質の手続きであるため、最優先で対応してください。ここで紹介した届出のほかにも、役員報酬の決定(定期同額給与・原則3ヶ月以内)や法人口座の開設なども設立直後の重要な検討事項です。会社設立そのものの流れや必要な準備については会社設立の基礎知識を、法人化のメリット・注意点についてはマイクロ法人で節税は本当?失敗する人の共通点もあわせてご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 法人設立届出書を出し忘れた場合、何かペナルティはありますか?
法人設立届出書自体に罰則規定はありませんが、税務署が法人の存在を把握できず、各種通知や申告書類が届かない、青色申告の承認手続きなど他の届出にも支障が出るおそれがあります。気づいた時点ですぐに提出してください。
Q2. 青色申告承認申請書の期限を過ぎてしまったら、その事業年度はずっと白色申告のままですか?
期限までに申請できなかった場合、その事業年度は白色申告となります。翌事業年度分としてあらためて青色申告承認申請書を提出すれば、翌期からは青色申告が可能になりますが、期限を過ぎた事業年度にさかのぼって承認を受けることはできません。
Q3. 社会保険への加入は、赤字の会社でも必要ですか?
必要です。健康保険・厚生年金への加入は利益の有無にかかわらず、法人の事業所であれば社長1人の会社でも法律上の義務とされています。保険料の負担を理由に加入を先送りすると、後から過去分をまとめて徴収されるリスクがあるため注意してください。
この内容はYouTube動画でも解説しています。あわせてご覧ください。
田中将太郎 公認会計士・税理士YouTubeチャンネル
法人成り後の届出は種類が多く、会社ごとに優先順位や必要書類も異なります。ご自身での判断に迷う場合は、無料相談・お問い合わせからご相談ください。
出典・参考情報(国税庁・日本年金機構ほか)
- 国税庁タックスアンサー No.5100 新設法人の届出書類
- 国税庁タックスアンサー No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
- 国税庁タックスアンサー No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
- 国税庁 A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
- 国税庁 A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続
- 国税庁 インボイス制度に関するQ&A(登録手続関係)
- 国税庁タックスアンサー No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき
- 東京都主税局 法人事業税・法人都民税(法人設立・設置届出)
- 日本年金機構 適用事業所と被保険者
- 日本年金機構 新規適用の手続き
- 日本年金機構 被保険者資格取得届(就職したときの手続き)
※本記事の期限・提出先は2026年7月時点の一次情報をもとに記載しています。自治体ごとの届出期限や制度の詳細は変更される場合がありますので、実際の手続きにあたっては所轄の税務署・年金事務所、または顧問税理士に最新の内容をご確認ください。本記事の出典URLは公開前にあらためてリンク切れ・内容の再確認を行います。
