医療法人のM&A・事業承継|売却・継承の進め方と税務
医療法人のM&A・事業承継は、一般の会社とはまったく異なるルールで動きます。株式会社なら「株式の譲渡」で経営権を移せますが、医療法人には株式がなく、「出資持分」の有無や「持分なし医療法人」への移行、都道府県の認可といった医療法人特有の論点が絡むためです。とりわけ、持分あり医療法人の出資持分は相続財産として高額に評価されることがあり、対策をしないまま相続が起きると、後継者に多額の相続税がのしかかります。本ページでは、医療法人10法人以上の顧問実績を持つ公認会計士・税理士が、M&A・事業承継の選択肢と税務のポイントを、厚生労働省・国税庁の一次情報にもとづいて解説します。
結論:医療法人の承継は「出資持分」と「認定医療法人」の設計で決まる
医療法人の事業承継で最大の論点は、「出資持分があるか・ないか」です。持分あり医療法人(平成19年3月以前に設立された社団医療法人に多い)では、出資持分そのものが財産として評価され、相続・承継のたびに相続税・贈与税の対象になります。この評価額が想定外に大きくなり、承継の障害となるケースが少なくありません。ここに「認定医療法人制度」を使った持分なし医療法人への移行や、相続税・贈与税の納税猶予といった打ち手を組み合わせられるかが、承継の成否を分けます。まずは選択肢を整理します。
医療法人のM&A・事業承継 3つの選択肢
①親族内承継(子や親族への承継)
後継者となる親族が医師である場合、理事長の交代とあわせて、出資持分あり医療法人では出資持分を相続または生前贈与で引き継ぎます。このとき出資持分の評価額に応じた相続税・贈与税が発生するため、評価額の把握と、後述する認定医療法人制度・納税猶予の活用可否を早期に検討することが重要です。
②第三者へのM&A(売却・継承)
後継者が院内にいない場合、第三者へM&Aで承継する選択肢があります。持分あり医療法人では出資持分の譲渡により経営権を移すことができ、売り手には譲渡所得課税が生じます。持分なし医療法人では「持分の譲渡」という概念がないため、理事長・理事の交代(役員変更)や基金の取扱いを通じて経営権を移すスキームを設計します。ほかに、医業の全部・一部を移す事業譲渡、医療法人同士の合併(いずれも都道府県の認可・保険医療機関の手続きを伴う)といった手法があります。どの手法が最適かは、持分の有無・診療科・不動産・借入・スタッフの雇用継続など個別事情で変わります。
③持分なし医療法人への移行(認定医療法人制度)
「承継のたびに出資持分へ課税されるリスクそのものを解消したい」場合、持分なし医療法人へ移行する選択肢があります。出資者全員が持分を放棄することで、以後は出資持分が相続財産にならなくなります。この移行を税制面で支援するのが、次に述べる認定医療法人制度です。
最大のリスク:出資持分の評価(財産評価基本通達194-2)
持分あり医療法人の出資持分は、相続税・贈与税の計算上、財産評価基本通達194-2の定めにより、取引相場のない株式に準じて評価されます(類似業種比準方式では業種目を「その他の産業」として評価)。長年黒字を重ねて内部留保が厚くなった医療法人ほど評価額は高くなりやすく、額面の出資額とはかけ離れた金額になることがあります。医療法人は剰余金の配当が禁止されている(医療法第54条)ため利益が法人内に積み上がりやすく、これが出資持分の評価を押し上げる構造的な要因です。承継を考え始めたら、まず自法人の出資持分がいくらに評価されるのかを把握することが出発点になります。
認定医療法人制度で税負担を軽減する(認定期限は令和11年12月31日)
認定医療法人制度は、持分あり医療法人が持分なし医療法人へ移行する計画を作成し、厚生労働大臣の認定を受けることで、移行の過程で生じる相続税・贈与税に税制優遇を受けられる制度です。移行計画の認定を受けられる期限は令和11年(2029年)12月31日までとされています(制度は延長されてきた経緯があるため、検討時点の最新期限は必ず確認してください)。
相続税・贈与税の納税猶予と免除
認定を受けた医療法人では、出資者が持分を放棄したことで他の出資者に生じる贈与税について、認定移行計画に記載された移行期限まで納税が猶予され、移行期限までに持分のすべてを放棄した場合などには、届出により納税が免除されます。相続により持分を取得した場合の相続税についても、同様の納税猶予・税額控除の特例が設けられています。これらを使うか使わないかで、承継時の税負担は大きく変わります。
認定期限と移行計画
制度を活用するには、期限までに移行計画の認定を受ける必要があります。移行計画の作成、出資者間の合意形成、認定申請、移行の実行までには相応の時間がかかるため、「使えるうちに間に合わせる」逆算のスケジューリングが欠かせません。
医療法人M&A・承継の進め方(大まかな流れ)
一般的な流れは、①現状分析(出資持分の有無・評価額・財務・借入・不動産の確認)→ ②方針決定(親族内承継/第三者M&A/持分なし移行のいずれか)→ ③スキーム設計と税務シミュレーション → ④相手方との交渉・基本合意 → ⑤デューデリジェンス → ⑥契約・認可申請・移行の実行 → ⑦承継後のフォロー、というステップを踏みます。医療法人特有の認可手続きや保険医療機関の指定に関わる論点も多く、税務・財務・法務を横断した設計が必要です。
なぜ医療法人のM&A・承継に「公認会計士」なのか
医療法人のM&A・事業承継は、出資持分の評価という財務・バリュエーションの論点と、相続税・贈与税・譲渡所得という税務の論点が一体で動きます。当事務所は、医療法人10法人以上の顧問実績に加え、公認会計士としてのM&A・財務・バリュエーションの専門性を持ち、「評価額の把握 → 認定医療法人・納税猶予の活用可否 → 最適スキームの設計 → 実行」までを一気通貫で支援できます。記帳・申告にとどまらず、承継という一度きりの意思決定を数字で支えられることが、医療特化の会計事務所を選ぶ価値です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 自院が「持分あり」か「持分なし」かはどう確認できますか?
定款や設立時期が手がかりになります。平成19年4月の医療法改正より前に設立された社団医療法人の多くは「持分あり」です。正確には定款の記載や登記・出資関係書類の確認が必要なため、判断に迷う場合は専門家にご相談ください。
Q2. 後継者がいません。第三者へのM&Aは可能ですか?
可能です。持分あり医療法人なら出資持分の譲渡、持分なし医療法人なら役員変更等のスキーム、あるいは事業譲渡・合併といった手法があります。診療科・不動産・借入・スタッフの雇用継続など個別事情に応じて最適な手法を設計します。
Q3. 認定医療法人制度はいつまで使えますか?
移行計画の認定を受けられる期限は令和11年(2029年)12月31日までとされています。ただし制度は過去に延長されてきた経緯があるため、検討時点の最新の期限を必ず確認してください。認定から移行完了までには時間を要するため、早めの検討をおすすめします。
医療法人のM&A・事業承継・売却は、出資持分の評価と認定医療法人制度の活用可否で結果が大きく変わります。まずは自法人の状況整理から、無料相談・お問い合わせでお気軽にご相談ください。公認会計士がM&A・承継・税務までワンストップでご支援します。お急ぎの方はお電話(050-3580-3727)でも承ります。
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田中将太郎 公認会計士・税理士YouTubeチャンネル
出典・参考情報(厚生労働省・国税庁)
- 厚生労働省 持分の定めのない医療法人への移行計画の認定制度(認定医療法人制度)
- 国税庁タックスアンサー No.4440 医療法人の持分に係る経済的利益についての贈与税の納税猶予の特例
- 国税庁タックスアンサー No.4150 医療法人の持分についての相続税の納税猶予の特例
- 国税庁タックスアンサー No.4177 医療法人の持分についての相続税の税額控除の特例
※本ページは一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務判断を保証するものではありません。制度の適用要件・期限は変更される場合があります。実際の承継・M&Aにあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。監修:公認会計士・税理士 田中将太郎