クリニックの税理士の選び方|顧問料相場と医療特化の強み
クリニックや医院の経営が軌道に乗ると、多くの先生が「今の税理士のままでよいのか」「開業時に紹介された会計事務所で医療特有の節税や医療法人化まで任せられるのか」と考え始めます。結論からお伝えすると、クリニックの税理士は「医療に特化しているかどうか」で選ぶべきです。医療機関の税務は、社会保険診療の消費税非課税や概算経費の特例、医療法人という特殊な法人形態など、一般の事業とは判断の分かれるポイントが数多くあるためです。本記事では、医療法人10法人以上を含む累計500社超の支援実績を持つ公認会計士・税理士が、税理士の顧問料の相場と、失敗しない選び方の基準を、国税庁・医療法の一次情報にもとづいて解説します。
結論:クリニックの税理士は「医療特化かどうか」で選ぶ
税理士は全国に8万人以上いますが、医療機関の税務・経営に精通した税理士はごく一部です。クリニックは「保険診療と自由診療で税金の扱いが変わる」「医療法人には株式会社にないルールがある」といった医療ならではの論点を抱えており、これらを踏まえずに一般企業と同じ感覚で処理すると、払わなくてよい税金を払ったり、逆に税務調査で否認されたりするリスクがあります。まずは、なぜ医療特化が必要なのかを3つの制度から具体的に見ていきます。
なぜクリニックに“医療特化”の税理士が必要なのか
①社会保険診療は消費税が非課税|自由診療と課税判定が分かれる
健康保険法・国民健康保険法などによる社会保険診療は、消費税の非課税取引とされています(消費税法別表第二)。一方で、美容整形などの自由診療、差額ベッド代、市販されている医薬品の販売などは非課税取引には当たらず、消費税の課税対象です。つまり、同じクリニックの売上でも、保険診療部分と自費部分で消費税の扱いが真っ二つに分かれます。自由診療の比率が高い診療科(美容・審美・自費のワクチンや健診など)では、課税売上が一定額を超えると消費税の納税義務が生じるため、どこまでが課税でどこからが非課税かを正しく区分できる税理士でなければ、納税額の予測すら立てられません。この課税・非課税の区分は、医療機関特有の実務であり、一般企業の顧問経験だけでは対応が難しい領域です。
②概算経費の特例(措置法26条・67条)で節税の打ち手が変わる
医業・歯科医業には、実際の経費ではなく収入に応じた一定率を経費とみなせる「社会保険診療報酬の所得計算の特例」があります(個人は租税特別措置法第26条、医療法人は同法第67条)。この特例は、社会保険診療報酬が年5,000万円以下、かつ医業・歯科医業から生じる収入金額が7,000万円以下の場合に選択でき、実際の経費率が低いクリニックでは大きな節税につながることがあります。適用するかどうかは、実額経費と概算経費のどちらが有利かをシミュレーションして判断する必要があり、この特例の存在を知らない税理士に任せると、本来受けられたはずの節税機会を逃してしまいます。特例が使える規模かどうかの境界線上にあるクリニックでは、収入のコントロールも含めた事前の設計が重要になります。
③医療法人は剰余金の配当が禁止(医療法54条)=資金設計が特殊
医療法人は、株式会社と違って剰余金の配当が法律で禁止されています(医療法第54条)。利益が出ても株主に配当として分配することはできず、内部留保や設備投資、給与の改善などに充てることになります。さらに、役員への貸付けや特定の役員だけが使う社宅の保有など、外形的に配当に準ずるとみなされる「配当類似行為」も禁止されており、違反すると理事・監事が過料に処せられることがあります。そのため、医療法人の資金は、役員報酬の設計やMS法人(メディカルサービス法人)の活用など、株式会社とはまったく異なる考え方で最適化する必要があります。この医療法人特有の資金設計を理解しているかどうかが、医療特化の税理士とそうでない税理士の決定的な差になります。
クリニックの税理士 顧問料の相場
クリニックの税理士の顧問料は、売上規模・分院数・記帳代行の有無・医療法人か個人かによって変わります。以下はあくまで一般的な目安であり、正式な費用は必ず見積りで確認してください。
| 区分 | 月額顧問料の目安 | 決算料の目安 | 年間合計の目安 |
|---|---|---|---|
| 個人クリニック(記帳代行込み) | 2〜4万円 | 10〜20万円 | 約40〜70万円 |
| 医療法人 | 3〜6万円 | 15〜30万円 | 約60〜100万円 |
| スポット業務(医療法人化・事業承継・M&A) | — | 案件ごとに個別見積 | 別途 |
顧問料は「安さ」だけで選ぶと、医療特有の節税提案や医療法人化・事業承継の相談ができず、結果的に手元に残るお金を減らしてしまうことがあります。料金そのものより、「その顧問料でどこまでの医療特化サポートが受けられるか」を基準に比較することをおすすめします。
失敗しない税理士の選び方 5つのチェックポイント
開業医・医療法人の先生が税理士を選ぶ際に確認したい基準を5つに整理しました。
- ①医療機関の顧問実績があるか:医療法人・クリニックの顧問先を実際に何件持っているか、対応した診療科を確認します。医療特有の論点は経験がものを言います。
- ②医療法人化の相談に乗れるか:法人化のメリット・デメリットやタイミング、認可申請までワンストップで支援できるか。将来を見据えた提案ができる税理士が理想です。
- ③自由診療の消費税・概算経費特例に精通しているか:課税・非課税の区分や措置法26条・67条の判断を任せられるか。医療税務の核心部分です。
- ④事業承継・M&Aまで見据えているか:出資持分の評価、後継者への承継、第三者へのM&Aなど、出口戦略まで相談できるか。医療法人は承継の設計が特に複雑です。
- ⑤クラウド会計・数字の見える化に対応しているか:毎月の経営数値をタイムリーに把握できる体制か。記帳を丸投げして終わりではなく、経営判断に使えるかが重要です。
こんな税理士は避けたい
反対に、次のような税理士は医療機関の顧問としては注意が必要です。医療機関の顧問がゼロで一般企業の処理をそのまま当てはめる、社会保険診療と自由診療の区分をあいまいにする、節税の提案が一切なく「言われた記帳をするだけ」、医療法人化や承継の相談をすると話が止まってしまう——こうした事務所は、医療特有の機会損失やリスクを見逃す可能性が高いといえます。
開業→医療法人化→承継まで、フェーズ別にできること
医療特化の税理士は、開業から出口までの各フェーズで役割が変わります。開業期には資金計画・開業届・青色申告・概算経費特例の判断を、成長期には自由診療の消費税管理・分院展開・医療法人化の検討を、成熟期には出資持分対策・認定医療法人・役員退職金の設計を、そして承継期には後継者への事業承継や第三者へのM&Aを支援します。目先の記帳だけでなく、この長い時間軸で伴走できるかどうかが、医療特化の税理士を選ぶ最大の価値です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 開業時に紹介された税理士のままでも問題ありませんか?
記帳や申告だけであれば対応できますが、自由診療の消費税判定や概算経費特例、医療法人化・事業承継といった医療特有の論点まで踏み込んだ提案を受けられているかがポイントです。これらの相談に十分な回答が得られない場合は、医療特化の税理士への切り替えを検討する価値があります。
Q2. クリニックの税理士の顧問料の相場はどのくらいですか?
一般的な目安として、個人クリニックで月額2〜4万円+決算料10〜20万円、医療法人で月額3〜6万円+決算料15〜30万円程度です。ただし売上規模・分院数・記帳代行の有無で変わるため、正式には見積りでご確認ください。
Q3. 医療法人化を考えていますが、税理士に相談すべきタイミングは?
医療法人化は、所得水準・分院展開の予定・都道府県の認可スケジュールなどを踏まえて判断するため、検討を始めた段階で早めに相談するのが得策です。決算期や認可の申請時期との兼ね合いで最適なタイミングが変わるため、法人化を意識し始めたら一度シミュレーションを受けることをおすすめします。
クリニック・医療法人の税務は、一般企業とは判断の分かれる論点が数多くあります。医療に強い会計事務所をお探しの先生は、無料相談・お問い合わせからお気軽にご相談ください。医療法人の節税・法人化・事業承継まで、公認会計士がワンストップでご支援します。
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田中将太郎 公認会計士・税理士YouTubeチャンネル
出典・参考情報(国税庁・医療法ほか)
- 国税庁タックスアンサー No.6201 非課税となる取引(社会保険診療の消費税非課税)
- 国税庁 租税特別措置法関係通達 第67条《社会保険診療報酬の所得の計算の特例》関係
- 大阪府 医療法人の剰余金配当の禁止と役員の報酬等(医療法第54条)
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の適用にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。監修:公認会計士・税理士 田中将太郎