その「節税保険」、1万円の節税に約4万円払う計算に【実効税率25%のモデル試算】|入口・出口・実費の通算表で公認会計士が解体

公開 2026.09.10 約15分で読めます 筆者:田中将太郎(公認会計士・税理士)

この記事は、保険営業から「法人保険で節税しませんか」と提案を受けている経営者、またはすでに貯蓄型の経営者保険に加入している経営者が、「契約すべきか・見直すべきか」を数字で判断するための記事です。結論から言うと、「節税保険」は入口の節税・出口の課税・保険会社に払う実費の3点を通算すると、多くのケースでマイナスになり得ます。実効税率25%のモデル試算では、1万円の節税のために約4万円の実費を払う計算になります。本記事では、通算表の作り方、2019年のルール改正の内容、それでも保険が有効な3つの場面、契約前に営業担当者へ求めるべき3点セットまでを、公認会計士・税理士が解説します。

結論:「節税保険」は通算表で判断する

保険の節税提案は、ほとんどの場合「入口」だけを見せます。「10年で200万円の節税です」という説明です。しかし貯蓄型保険には「出口」(解約返戻金への課税)と「実費」(払込額と返戻額の差、つまり保険会社に払うコスト)があります。この3つを1つの表に並べたものが通算表です。

モデルケースで計算します。毎年利益1,000万円の会社が、法人を契約者・保険金受取人とする保険期間30年の定期保険(最高解約返戻率85%)に、年200万円の保険料を10年間払って解約するとします。この契約は、後述する国税庁のルール(法人税基本通達9-3-5の2)の対象となる「保険期間3年以上・最高解約返戻率50%超の定期保険」で、最高解約返戻率70%超85%以下の区分では、資産計上期間(保険期間の当初40%相当期間=このモデルでは当初12年)の間、損金算入できるのは保険料の40%です。10年間すべてがこの資産計上期間内(資産取崩し前)に収まる前提です。法人税等の実効税率はここでは概算で25%とします。

「節税保険」10年の通算表(概算モデル)金額
保険料の支払い(年200万円×10年)▲2,000万円
入口の節税(損金800万円×25%)+200万円
解約返戻金(返戻率85%)+1,700万円
出口の課税(益金500万円×25%)▲125万円
通算▲225万円

ポイントは3つです。

  • 入口の節税は200万円: 損金にできるのは2,000万円の40%=800万円。税率25%で200万円の税負担減。
  • 出口で125万円課税される: 解約返戻金1,700万円のうち、資産計上していた1,200万円(60%)を除いた500万円は益金、つまり課税対象です。入口で減った税金の一部は出口で回収されます。
  • 300万円は保険会社に払う実費: 2,000万円払って1,700万円しか戻らない差額300万円は、保障のコストと保険会社の経費・手数料です。

結果、税金の純減は200万円−125万円=75万円しかないのに、実費として300万円を払っています。実効税率25%のこのモデルでは、1万円の税金を減らすために、約4万円を保険会社に払う計算です(実効税率は所得規模等により約21〜33%で変動するため、同じ前提でもこの比率は約1対4.8〜1対3.0の間で変わります)。これを「節税」と呼ぶのは無理があります——正確には「課税の繰延べを、手数料を払って買っている」取引です。

損金割合が変わっても結論は変わらない

「うちの保険は損金割合が違うから当てはまらない」と思うかもしれません。しかし、入口と出口の税率が同じである限り、次の関係が成り立ちます。

保険で減る税金 = 保険会社に消えるお金(払込額−返戻額)× 税率 が上限

上のモデルなら300万円×25%=75万円が節税効果の上限です。損金割合が40%でも60%でも、入口の節税が増えた分だけ出口の益金も増えるため、通算の損益は変わりません。変えられるのは「保険会社に消えるお金」と「入口と出口の税率差」の2つだけです。この構造を理解することが、あらゆる保険提案を判断する出発点になります。

2019年のルール改正:「全損保険」の時代は終わっている

かつては保険料の全額を損金にでき、解約すれば8〜9割が戻る「全損保険」が経営者向けに大量販売されていました。国税庁はこれを実質的な課税の繰延べと問題視し、2019年(令和元年)に法人税基本通達を改正。改正後のルールは令和元年7月8日以後の契約分に適用されています(国税庁タックスアンサーNo.5364-2)。この2019年の通達改正を機に該当商品の販売が大きく見直された出来事は、金融庁の資料でも「いわゆるバレンタインショック」と呼ばれており、金融庁は改正後も「節税(租税回避)を主たる目的として販売される保険商品」への注意喚起と国税庁との連携強化を続けています(金融庁2022年7月公表資料)。

現在のルールでは、最高解約返戻率が高い(=貯蓄性が高い)保険ほど、損金にできる割合が小さくなります

最高解約返戻率取扱い(当初の資産計上期間)
50%以下原則、期間の経過に応じて全額損金算入(国税庁タックスアンサーNo.5364に基づく一般的な取扱い)
50%超〜70%以下保険料の40%を資産計上(60%損金)
70%超〜85%以下保険料の60%を資産計上(40%損金)
85%超保険料×最高解約返戻率×90%を資産計上(当初10年間。11年目以降は×70%)

この表の資産計上割合の対象は、保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険で最高解約返戻率が50%を超えるものです(50%以下の契約は、国税庁タックスアンサーNo.5364に基づき、原則として期間の経過に応じて損金算入する一般的な取扱いです)。資産計上の期間と取崩しの時期は、区分によって次のように異なります。50%超85%以下の区分では、資産計上期間は保険期間の当初40%相当期間で、保険期間の75%相当期間の経過後から資産計上額の取崩し(損金算入)が始まります。85%超の区分では、資産計上期間は原則として最高解約返戻率となる期間等の終了まで続き(5年を経過する日まで等の所定の最低期間があります)、資産計上額は当初10年間が「保険料×最高解約返戻率×90%」・11年目以降が「×70%」、取崩しは解約返戻金相当額が最も高い金額となる期間の経過後から始まります。また、養老保険・終身保険や、保険金受取人が法人以外の契約は、この表とは別の取扱いです(養老保険は国税庁タックスアンサーNo.5363参照)。

なお、最高解約返戻率70%以下かつ1被保険者あたりの年換算保険料相当額が30万円以下の場合は全額損金算入できる例外がありますが、「大きく掛けて大きく損金にする」ことは制度上できなくなっています。つまり「全損保険で節税」という提案は、7年前に制度ごと終わったスキームの残像です。

「退職金とぶつければ得」は本当か:3つのシナリオ比較

それでも売り手には切り札のトークがあります。「解約返戻金のピークを社長の退職金にぶつけましょう」というものです。役員退職金は、適正額の範囲であれば株主総会の決議等で額が確定した事業年度の損金になります(実際に支払った事業年度に損金算入するには、その年度での損金経理が必要です。国税庁タックスアンサーNo.5208)。出口の益金500万円を退職金の損金と相殺すれば、たしかに出口の課税125万円は消えます。しかし、ここには比較のトリックが隠れています。計算して確かめます。

シナリオ比較(10年通算・概算モデル)通算損益
現金のまま内部留保(保険なし・退職金は同額支給)±0円(基準)
節税保険・ピークで解約▲225万円
節税保険・ピーク解約×退職金相殺(退職金は保険なしでも同額支給)原則▲225万円(※)
節税保険・ピークを逃して解約(返戻率70%)▲450万円

退職金をぶつけても、通算は原則▲225万円のまま変わりません。理由は、比較の相手である「保険なし」のケースにも、同じ退職金を置いて計算しなければフェアな比較にならないからです。役員退職金の損金は、保険があってもなくても使えます。保険なしで同じ退職金を支払えば、その損金はその年の利益を減らすか、利益が足りなければ欠損金となって繰越控除・繰戻し還付で税負担を減らします。つまり「退職金の損金で税金が減る」効果は保険の手柄ではなく、保険あり・なしの両方に共通です。差し引きすれば、保険による増分の損失は▲225万円のままです。

(※)通算の悪化が▲100万円まで縮む(=出口課税125万円分だけ改善する)のは、保険がなければ退職金の損金で生じる欠損の税効果が、繰越控除・繰戻し還付を含めて将来も利用できない——つまり出口年度の限界税率が実質0%になる——という限定的な場合だけです。その場合でも、退職金が適正額の範囲内であること、株主総会の決議等による確定(支払年度に落とすなら損金経理)、社長個人の側で退職所得として所得税・住民税がかかること、という条件が別途つきます。

そして実務で頻発するのが最下段です。解約返戻率のピークは契約時に決まっていますが、社長の退職時期は動きます。業績好調で「あと5年やる」となれば返戻率は下り坂に入り、逆に想定より早く事業をたたむことになればピーク前の低い返戻率で解約することになる。タイミングがずれた瞬間、マイナスは大きく膨らみます。

実際にあった失敗例

筆者の顧問先に、業績好調な建設業の50代社長がいました(特定を避けるため業種等は変えています)。利益が出るたびに「節税になりますよ」と勧められるまま契約を積み増し、掛金の累計は1,000万円。解約時に戻ったのは8割の800万円で、200万円の目減りが確定。さらに戻った800万円のうち資産計上分600万円を除いた200万円は益金となり、法人税等が約50万円かかりました。「節税になりますよ」の中に、「2割目減りして戻ります」も「出口で課税されます」も入っていなかったのです。

保険が本当に有効な3つの場面

ここまでの話は「保険が悪い」という意味ではありません。問題なのは目的が「節税」になった保険だけで、保険にしかできない仕事が3つあります。

場面1: 死亡保障そのもの

社長に万一のことがあった場合に会社が必要とする資金は、概ね「借入金の残高+固定費の6か月〜1年分+遺族の生活資金−手元資金」を出発点に見積もります。ただし、この式だけで必要な保険金額(額面)は決まりません。契約者・被保険者・受取人を誰にするかで税務が変わるからです。法人が保険金を受け取る設計では、受取保険金と資産計上残高との差額(保険差益)は益金となり法人税等がかかり得る一方(国税庁 質疑応答事例「評価会社が受け取った生命保険金の取扱い」)、借入元本の返済は損金になりません。逆に遺族が受取人なら、保険金は会社の資金にはならず、税目も個人側の課税に変わります。額面がそのまま返済や運転資金に使えるとは限らないため、必要保障額は、保険差益への法人税等、欠損金、死亡退職金その他の損金まで織り込んだ税引後の手取額ベースの個別試算で決めてください。この保障を返戻金ゼロの掛け捨て定期保険で買うのが原則である点は変わりません。保障を買うことが目的だからです。

場面2: 借入・連帯保証への備え

中小企業では会社の借入に社長個人が連帯保証しているケースが大半です。社長に万一のことがあったとき、残された家族と会社が借入の処理に窮しないよう、死亡保険金の税引後の手取りで借入を完済できる状態(法人受取なら前述の保険差益への法人税等を織り込んだ水準)にしておくことは、節税とは無関係の、家族と会社を守るための保険の正しい使い方です。

場面3: 出口まで設計済みの繰延べ

通算表の数字を改善できる唯一の例外は、入口より出口の限界税率を実際に下げられるときです。前述のとおり、退職金をぶつけるだけでは原則▲225万円のまま変わりません。改善するのは、保険がなければ退職金の損金で生じる欠損の税効果を(繰越控除・繰戻し還付を含めて)使えない事情がある会社で、かつ解約返戻金のピーク年に退職金という大きな損金をぶつける設計が具体的な年数・金額で最初からできている、という限定的な場合で、本記事のモデル前提では、それでも最良で▲100万円程度であり、プラスにはなりません——▲100万円を「10年分の死亡保障のコスト」として納得できるかどうか、という判断です。順番が重要です——保障が主役で、繰延べはオマケ。「節税から入るな、保障から入れ」が原則です。

繰延べだけが目的なら、実費ゼロの経営セーフティ共済が先

「課税の繰延べ」自体をやりたいなら、保険より先に検討すべき制度があります。中小機構の経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)です。ただし誰でも使えるわけではありません。加入できるのは、引き続き1年以上事業を継続している中小企業者で、業種ごとの資本金または従業員数の要件(製造業・建設業等は資本金3億円以下または従業員300人以下、など)を満たす会社・個人に限られます(中小機構 加入資格)。

手段損金算入実費(手数料)戻り
経営セーフティ共済掛金月5,000円〜20万円・積立累計800万円まで。法人は明細書添付で全額損金ゼロ40か月以上の納付で100%(12か月未満は掛け捨て)
本記事モデルの貯蓄型保険4〜6割など制限ありモデルで10年300万円返戻率85%(仮定)・出口課税あり
掛け捨て定期保険原則損金保険料全額=保障の対価ゼロ(保障が目的)
現金の内部留保なし(課税済み)ゼロいつでも100%・使途自由

経営セーフティ共済は40か月以上納付すれば掛金全額が戻り、保険会社に消える実費がありません。ただし注意点が4つあります。第一に、掛金の積立上限は累計800万円です(中小機構 掛金について)。月20万円なら3年4か月で上限に達するため、本記事の保険モデル(10年2,000万円)を同じ規模でそっくり置き換えることはできません。第二に、法人が掛金を損金算入するには、法人税の申告書に所定の明細書と適用額明細書を添付する必要があります。第三に、解約手当金は掛金を損金算入していた場合、全額が益金です(中小機構FAQ)——出口で課税される構図は保険と同じなので、出口設計が必須です。第四に、令和6年10月1日以降に解約した場合、解約から2年を経過する日までに支出する掛金は損金算入できません。出口設計の具体的な方法は経営セーフティ共済の出口戦略で詳しく解説しています。

なお、借入もなく家族への備えも十分な会社なら、「保険に入らない」ことも立派な財務戦略です。現金は返戻率100%、ピークはなく、いつでも使えます。

契約前チェックリスト:営業担当者に求める3点セット

保険提案を受けたら、契約前に、判断に必要な次の3点の数値・設計書の提示を求めてください。募集人の立場や社内規程により税務計算を含む資料は提供されない場合もあります。十分な資料が得られない場合は契約を保留し、税理士等に通算計算を依頼してください

  1. 通算表: 入口の節税・出口の課税・実費(払込額−返戻額)を1枚に並べた表。「節税額」だけの資料では判断できません。
  2. 掛け捨て比較: 同じ保障額を掛け捨て定期保険で買った場合の保険料との比較。保障のコストが適正かが分かります。
  3. 出口の設計書: 解約返戻金のピークが何年目か、その年に相殺する損金(退職金等)を何年後・いくらと想定するか。「そのとき考えましょう」は設計がないという意味です。

すでに加入している場合は、①証券で最高解約返戻率とピーク年を確認し、②上の通算表を自分の数字で作り、③ピーク年と退職予定年のずれを確認する、の順で見直します。ただし、ピーク前の解約は返戻率が低くかえって損失が拡大する場合があるため、解約の判断は必ず証券を見ながら専門家に相談してください

よくある質問

Q. 今入っている節税目的の保険は、すぐ解約すべきですか?

A. 即断は禁物です。解約返戻率がピーク前なら、解約によって損失が確定・拡大することがあります。まず証券で返戻率カーブとピーク年を確認し、退職金など出口の損金とぶつけられる余地がないかを検討してから判断してください。

Q. 決算対策として今からできることはありますか?

A. 繰延べが目的なら、実費ゼロの経営セーフティ共済が先です。ただし前提が4つあります。①加入資格(1年以上の事業継続と業種別の資本金・従業員数要件)を満たすこと、②掛金は月5,000円〜20万円・積立累計800万円が上限であること、③法人の損金算入には申告書への所定の明細書・適用額明細書の添付が必要なこと、④「年払い」は1年以内の前納として支払った事業年度の損金にできますが、前納には所定の手続き(原則毎月5日までに中小機構必着)があり、期末までに掛金の支払いが完了していることが条件です。さらに出口課税と2年ルールがあるため、加入前に出口まで設計してください。

Q. 保険料の損金割合は自社の保険ではどうなりますか?

A. 令和元年7月8日以後に契約した、保険期間3年以上・最高解約返戻率50%超の定期保険・第三分野保険であれば、最高解約返戻率の区分(上表)と、現在が資産計上期間・取崩期間のどの時期にあたるかで決まります。証券または設計書で商品種類・保険期間・最高解約返戻率を確認してください。養老保険・終身保険や、保険金受取人が法人以外の契約などは別の判定になり、それ以前の契約は旧ルールのままです。

保険・共済・役員報酬を含めた「通算で残るお金」の設計は、顧問税理士の仕事です。当事務所では、保険提案のセカンドオピニオンを含む税務顧問サービスを提供しています。「この保険、本当に入るべきか」を数字で確認したい方は、会計・税務顧問サービスのご案内をご覧ください。

まとめ

  • 「節税保険」の効果は「保険会社に消えるお金×税率」が上限。モデルケースでは1万円の節税に約4万円の実費を払う通算▲225万円
  • 全損保険は2019年の通達改正(令和元年7月8日以後契約)で制度上終了。返戻率が高いほど損金割合は小さい
  • 退職金をぶつけても、退職金の損金は保険がなくても使えるため通算は原則▲225万円のまま。改善するのは欠損の税効果を使えない限定的な場合だけで、ピークを逃すと損失は拡大する
  • 保険が有効なのは①死亡保障②借入・連帯保証への備え③出口まで設計済みの繰延べ、の3場面。必要保障額は税引後の手取額ベースで個別試算する
  • 繰延べ目的なら実費ゼロの経営セーフティ共済が先。ただし加入資格と累計800万円の上限があり、出口課税と2年ルールに注意

この記事の内容は、YouTubeチャンネルでも動画で解説しています。最新の税務・財務の解説は公認会計士・税理士 田中将太郎のYouTubeチャンネルをご覧ください。

出典(一次情報)

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